3-3 暗号・認証・セキュリティ対策

最終更新 2026-07-22内容の作り方 →

暗号・認証・セキュリティ対策

情報セキュリティ対策は、暗号化、認証、認可、ネットワーク防御、端末管理、監視、バックアップを組み合わせて行います。ITパスポートでは、対策名の暗記よりも「盗聴、改ざん、なりすまし、情報漏えい、サービス停止のどれを防ぐか」を判断することが重要です。

この節の目標は、共通鍵暗号・公開鍵暗号・ハッシュ・デジタル署名の役割を区別し、認証と認可、多層防御、ゼロトラスト、バックアップを具体的なリスクへ対応させられるようになることです。

1. 暗号技術を目的で使い分ける

技術 主な目的 特徴
共通鍵暗号方式 データの機密性を守る 暗号化と復号に同じ鍵を使い、高速だが鍵共有が課題
公開鍵暗号方式 鍵配送、暗号化、署名など 公開鍵と秘密鍵の組を使い、共通鍵方式より処理負荷が大きい
ハッシュ関数 データの完全性確認 元データから固定長のハッシュ値を作り、通常は元へ戻せない
メッセージ認証コード 改ざんと送信者の共有鍵保有を確認する 共通鍵とメッセージから認証値を作る
デジタル署名 署名者の確認、改ざん検知、否認防止 署名者の秘密鍵で署名し、公開鍵で検証する
電子証明書 公開鍵と組織・本人の関係を確認する 認証局が証明書を発行・管理する

共通鍵暗号は大量データを高速に暗号化するのに向き、公開鍵暗号は安全な鍵共有やデジタル署名に向きます。実際のTLS通信では、複数の暗号技術を組み合わせるハイブリッド方式が利用されます。

2. 公開鍵の使い方を方向で判断する

受信者だけが読めるように暗号化する

  1. 送信者は受信者の公開鍵でデータまたは鍵を暗号化する。
  2. 受信者は自分の秘密鍵で復号する。

秘密鍵を持つ受信者だけが復号できるため、機密性を守ります。

送信者が署名する

  1. 送信者はデータのハッシュ値を作る。
  2. 送信者は自分の秘密鍵を使って署名する。
  3. 受信者は送信者の公開鍵で署名を検証する。
  4. 受信データから計算したハッシュ値と照合する。

データが改ざんされていないことと、対応する秘密鍵の保有者が署名したことを確認します。暗号化と署名では、誰の鍵をどの目的で使うかが異なります。

3. 完全ケース:取引先へ機密ファイルを送る

会社Aが会社Bへ、未公開製品の設計資料を送ります。目的は、通信途中の盗聴を防ぎ、送信元と改ざん有無も確認することです。

適切な流れは次のとおりです。

  1. 会社Bの電子証明書が信頼でき、有効期限や接続先名に問題がないか確認する。
  2. 通信経路をTLSで暗号化する。
  3. 必要に応じて会社Aがファイルへデジタル署名する。
  4. 会社Bは会社Aの公開鍵で署名を検証する。
  5. ファイルの保管先、アクセス権、保存期間も管理する。

通信を暗号化しても、受信後に全社員が閲覧できる共有フォルダへ保存すれば情報漏えいリスクが残ります。通信、保管、利用、廃棄まで対策します。

4. 認証・認可・アカウント管理

  • 識別:利用者が自分のIDを示す。
  • 認証:その利用者が本人であることを確認する。
  • 認可:認証済み利用者へ許可する操作・情報を決める。
  • アカウンティング:利用状況や操作を記録する。
認証要素 注意点
知識情報 パスワード、PIN 使い回し、推測、フィッシングに注意する
所持情報 ICカード、スマートフォン、セキュリティキー 紛失時の停止手順が必要
生体情報 指紋、顔、静脈、虹彩 誤受入率・本人拒否率、漏えい時の変更困難性を考える

多要素認証は、異なる種類の要素を二つ以上組み合わせます。パスワードと秘密の質問は、どちらも知識情報なので二要素認証とは限りません。

アカウントのライフサイクル

  1. 入社・利用開始時に本人確認し、必要最小限の権限を付与する。
  2. 異動・役割変更時に権限を見直す。
  3. 特権アカウントは通常業務と分け、利用を記録する。
  4. 定期的に権限棚卸しを行う。
  5. 退職・契約終了時に速やかに停止する。

5. ネットワーク・Web・端末の対策

対策 主な役割 注意点
ファイアウォール 通信元、宛先、ポートなどに基づいて通信を制御する 許可ルールを最小限にし、定期的に見直す
WAF Webアプリケーションへの不正な通信を検知・遮断する 根本的な安全設計と更新の代替ではない
IDS 不正な通信や挙動を検知して通知する 検知後の対応手順が必要
IPS 不正な通信を検知し、自動的に遮断する 誤検知と業務影響を考える
EDR 端末の挙動を監視し、調査・隔離を支援する ログ分析と運用体制が必要
MDM モバイル端末を一元管理する 設定配布、遠隔ロック、遠隔消去など
DLP 機密情報の持出しや送信を検知・制御する 情報分類と例外手続が必要
SIEM 複数機器・サービスのログを集約・分析する 時刻、ログ品質、監視ルールを管理する
CASB クラウドサービス利用を可視化・制御する シャドーITやデータ持出しを確認する

一つの製品で全てを防げるわけではありません。入口対策、内部拡散防止、監視、復旧を組み合わせる多層防御が基本です。

6. ゼロトラストの考え方

ゼロトラストは、「社内ネットワークだから安全」と自動的に信頼せず、利用者、端末、場所、アプリ、データの状態をアクセスごとに確認する考え方です。

代表的な要素は次のとおりです。

  • 利用者と端末を継続的に確認する。
  • 必要最小限の権限を付与する。
  • ネットワークを細かく分割し、被害の横展開を抑える。
  • 通信とデータを暗号化する。
  • ログを集約し、異常を監視する。
  • 端末の更新状況や安全性に応じてアクセスを制御する。

ゼロトラストは「全てを拒否する」「VPNを廃止すれば完成する」という意味ではありません。業務要件に応じて認証、認可、端末管理、ネットワーク、監視を統合します。

7. バックアップと事業継続

バックアップは可用性と復旧のための重要な対策です。

3-2-1の考え方

  • 重要データを3つ保持する。
  • 2種類以上の媒体・保管方式を使う。
  • 1つは本番環境から分離して保管する。
用語 意味
RPO どの時点までデータを戻せればよいかという目標
RTO どれだけの時間で業務を復旧するかという目標
フルバックアップ 対象データを全て保存する
差分バックアップ 最後のフルバックアップ以降の変更を保存する
増分バックアップ 直前のバックアップ以降の変更を保存する

完全ケース:注文システムの復旧

RPOが1時間、RTOが4時間なら、最大1時間分のデータ損失に抑え、事故発生から4時間以内に業務を再開できる構成と手順が必要です。毎日1回だけバックアップする構成では、RPO1時間を満たせません。

バックアップ成功のログだけでは不十分です。実際に復元できるか、必要な時間内に再開できるかを定期的に試験します。

8. 対策を選ぶ判断手順

  1. 守る特性が機密性、完全性、可用性、真正性のどれか確認する。
  2. 脅威と利用される弱点を特定する。
  3. 予防、検知、封じ込め、復旧のどの段階か決める。
  4. 技術、人的、物理的、組織的対策を組み合わせる。
  5. 導入後の運用、ログ、教育、点検を設計する。
  6. 残留リスクと業務影響を再評価する。

9. よくある誤りと理由

  • ハッシュを暗号化と考える:ハッシュは通常、元データへ復号するための技術ではありません。
  • 公開鍵で署名し、秘密鍵で検証すると考える:署名者の秘密鍵で署名し、対応する公開鍵で検証します。
  • 認証と認可を同じと考える:本人確認が認証、許可する操作を決めるのが認可です。
  • 二つのパスワードなら多要素認証と考える:同じ知識要素を二つ使っても多要素とは限りません。
  • WAFがあれば安全な実装は不要と考える:WAFは補助対策であり、脆弱性の根本修正が必要です。
  • バックアップを取得すれば復旧できると考える:分離、世代管理、復元試験、RPO・RTOの確認が必要です。
  • 社内アクセスは無条件に安全と考える:利用者、端末、権限、状況を確認します。

10. セルフチェック

  • 目的は暗号化、改ざん検知、署名、本人確認のどれか。
  • 暗号化と署名で誰の公開鍵・秘密鍵を使うか説明できるか。
  • 認証、認可、ログ記録を区別したか。
  • 対策が予防、検知、対応、復旧のどこに位置するか。
  • バックアップのRPO・RTOと復元試験を確認したか。

理解を確認したら、第3章の練習問題第3章の知識カードで目的に合う対策を選んでください。リスク評価はセキュリティの基礎とリスク、攻撃の特徴は脅威と攻撃手法で確認できます。

公式範囲との対応

本節は、IPA「ITパスポート試験シラバス Ver.6.5」の情報セキュリティ、情報セキュリティ管理、情報セキュリティ対策、セキュリティ実装技術に対応し、暗号、認証、PKI、アクセス制御、ネットワーク・端末対策、監視、バックアップを扱います。

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