1-3 一つの取引から五要素と財務諸表へ
取引は会社の何を変えるのか
簿記の五要素は、取引によって変化する会社の状態を五つのグループに整理したものです。
- 資産:会社が持つ財産や、将来受け取る権利
- 負債:将来支払う義務
- 純資産:株主からの出資や、会社に蓄積された利益など
- 収益:当期の活動による価値の増加
- 費用:当期の収益を得るために負担した価値の減少
このページでは詳細な科目分類表を暗記するのではなく、実際の取引が五要素と財務諸表へどうつながるかを確認します。具体的な科目選択と借貸方向は第2章「勘定科目と5要素」で扱います。
連続ケース:青葉サービス株式会社の創業
取引1:株主から500,000円の出資を受けた
普通預金が500,000円増え、同額の資本金が増えます。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 500,000 | 資本金 | 500,000 |
| 科目 | 五要素 | 増減 | 最終表示 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 資産 | 増加 | 貸借対照表 |
| 資本金 | 純資産 | 増加 | 貸借対照表 |
この取引は資金が増えましたが、売上ではありません。株主からの出資だからです。
取引2:銀行から300,000円を借り入れた
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 300,000 | 借入金 | 300,000 |
| 科目 | 五要素 | 増減 | 最終表示 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 資産 | 増加 | 貸借対照表 |
| 借入金 | 負債 | 増加 | 貸借対照表 |
預金は増えましたが、返済義務も同額増えています。借入は収益ではありません。
取引3:備品200,000円を普通預金で購入した
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 備品 | 200,000 | 普通預金 | 200,000 |
資産の種類が普通預金から備品へ変わりました。購入時点では、長期間使用する備品全額を費用にしません。
取引4:商品240,000円を掛けで仕入れた
三分法では次のように記録します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入 | 240,000 | 買掛金 | 240,000 |
- 仕入:費用グループ
- 買掛金:負債グループ
決算では期末商品を反映し、当期に販売した商品の原価を売上原価として計算します。
取引5:商品360,000円を販売した
代金のうち180,000円を現金で受け取り、残額180,000円は掛けとしました。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 180,000 | 売上 | 360,000 |
| 売掛金 | 180,000 |
- 現金・売掛金:資産の増加
- 売上:収益の増加
売上360,000円と、実際に受け取った現金180,000円は同じ金額ではありません。未回収分は売掛金という資産です。
取引6:給料100,000円を普通預金から支払った
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 給料 | 100,000 | 普通預金 | 100,000 |
- 給料:費用の増加
- 普通預金:資産の減少
取引7:決算日に備品の減価償却費30,000円を計上した
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 30,000 | 備品減価償却累計額 | 30,000 |
現金は動いていませんが、当期に使用した分を費用として記録します。
五要素から財務諸表へ
| 五要素 | 代表科目 | 財務諸表 | 何を説明するか |
|---|---|---|---|
| 資産 | 現金、預金、売掛金、商品、備品 | 貸借対照表 | 会社が持つ財産・権利 |
| 負債 | 買掛金、借入金、未払金 | 貸借対照表 | 将来の支払義務 |
| 純資産 | 資本金、繰越利益剰余金 | 貸借対照表 | 株主の持分と蓄積利益 |
| 収益 | 売上、受取利息 | 損益計算書 | 当期に得た成果 |
| 費用 | 仕入、給料、減価償却費 | 損益計算書 | 成果を得るための負担 |
経営成績と財政状態を混同しない
預金が増えたが利益ではない取引
- 株主からの出資
- 銀行からの借入
- 売掛金の回収
預金が減ったが直ちに全額費用ではない取引
- 備品の購入
- 貸付金の支出
- 借入金元本の返済
現金・預金の増減だけで利益を判断できない理由です。
利益が純資産へつながる
収益の合計が費用の合計を上回ると当期純利益が生じます。
当期純利益=収益−費用
当期純利益は、決算手続を通じて純資産を増加させます。ただし、実際の繰越利益剰余金残高は、期首残高、当期純利益、配当などの影響を受けます。
第13章の統一ケースでは、期首繰越利益剰余金0円、配当なしという前提で、当期純利益80,000円が期末繰越利益剰余金80,000円になる流れを確認します。
取引の二面性を確認する表
| 取引 | 一つ目の変化 | 二つ目の変化 |
|---|---|---|
| 出資を受けた | 資産増加 | 純資産増加 |
| 借入をした | 資産増加 | 負債増加 |
| 備品を現金購入 | 資産増加 | 別の資産減少 |
| 商品を掛仕入 | 費用増加 | 負債増加 |
| 商品を掛販売 | 資産増加 | 収益増加 |
| 給料を支払った | 費用増加 | 資産減少 |
一つの取引で必ず二つの異なる五要素が動くとは限りません。資産同士、負債同士で振り替わる場合もありますが、借方・貸方は同額です。
よくある誤り
誤り1:お金が入ればすべて収益
出資、借入、売掛金回収は収益ではありません。入金原因を確認します。
誤り2:お金を払えばすべて費用
備品購入、貸付、借入金元本返済は費用ではありません。何を取得し、何の義務を消したかを確認します。
誤り3:売上と入金額は常に同じ
掛販売やクレジット販売では、売上発生時点と入金時点が異なります。
誤り4:利益と現金残高は同じ
利益には未回収の売掛金による売上も含まれ、現金残高には借入による入金も含まれます。
誤り5:当期純利益がいつでもそのまま繰越利益剰余金残高になる
期首残高や配当などの条件を確認します。第13章のケースでは条件を明示して計算します。
最終チェック
- 入出金ではなく取引原因を確認したか
- 二つの変化を説明できるか
- 各科目が五要素のどれか判断できるか
- B/S科目とP/L科目を区別できるか
- 売上・費用の発生時点と現金決済時点を区別したか
- 当期純利益と純資産の接続条件を確認したか
第1章の練習問題で簿記全体の流れを確認した後、第2章「勘定科目と5要素」で科目選択と借貸方向を学びます。
適用年度: 2026年度
最終確認日: 2026年7月19日
主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」