7-1 約束手形の振出・受入・取立・支払

約束手形は将来の支払を約束する証券

約束手形は、振出人が受取人に対して、記載された支払期日に一定金額を支払うことを約束した証券です。

2026年度の日商簿記3級では、紙の約束手形について、振出・受入・取立・支払、受取手形記入帳・支払手形記入帳、手形貸付金・手形借入金が出題範囲に含まれます。

このページの目標は、次の一連の流れを自分で処理できることです。

  1. 振出人と受取人を区別する
  2. 売掛金・買掛金から手形へ振り替える
  3. 受取手形・支払手形を記録する
  4. 支払期日に取立・支払を処理する
  5. 手形記入帳で期日と残高を管理する
  6. 商品取引の手形と金銭貸借の手形を区別する

約束手形では、誰が支払を約束したか、誰が受け取る権利を持つか、何の取引から生じたかを確認します。

約束手形の登場人物

立場 意味 会計上の立場
振出人 手形を作成し、支払を約束する人 将来支払う側
受取人 手形を受け取り、支払期日に代金を受け取る人 将来受け取る側

約束手形では、受け取る人を受取人と呼びます。振出人は支払義務を負い、受取人は代金を受け取る権利を持ちます。

4つの基本動作

動作 誰の処理か 主な科目
振出 支払う側が手形を作成して渡す 支払手形の増加
受入 受け取る側が手形を受け取る 受取手形の増加
取立 受取手形が期日となり、銀行口座へ入金される 受取手形の減少
支払 支払手形が期日となり、銀行口座から引き落とされる 支払手形の減少

連続ケース:青葉商事株式会社

青葉商事株式会社と取引先の間で、掛取引から約束手形による決済へ移る流れを追います。

売掛金が受取手形へ変わる

4月1日:商品を掛けで販売した

取引:得意先へ商品300,000円を掛けで販売した。三分法で記帳している。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 300,000 売上 300,000

この時点では、代金を後日受け取る権利は売掛金です。

4月10日:売掛金の代金として約束手形を受け取った

得意先が振り出した、支払期日6月30日、金額300,000円の約束手形を受け取りました。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
受取手形 300,000 売掛金 300,000
  • 売掛金:掛取引による債権が減少
  • 受取手形:手形による債権が増加

売上をもう一度計上しません。販売時に発生した債権の種類が変わっただけです。

6月30日:受取手形を取り立てた

手形が支払期日となり、当座預金へ300,000円が入金されました。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
当座預金 300,000 受取手形 300,000

受取手形という権利が消え、当座預金へ変わります。

買掛金が支払手形へ変わる

5月1日:商品を掛けで仕入れた

取引:仕入先から商品240,000円を掛けで仕入れた。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 240,000 買掛金 240,000

5月15日:買掛金の代金として約束手形を振り出した

支払期日7月31日、金額240,000円の約束手形を振り出し、仕入先へ渡しました。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
買掛金 240,000 支払手形 240,000
  • 買掛金:掛取引による債務が減少
  • 支払手形:手形による債務が増加

仕入をもう一度計上しません。

7月31日:支払手形が決済された

支払期日に当座預金から240,000円が引き落とされました。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
支払手形 240,000 当座預金 240,000

支払手形という負債を借方で取り崩し、当座預金を貸方で減らします。

商品販売・仕入時に直接手形を使う場合

掛取引を経ず、商品販売・仕入と同時に約束手形を受け取ったり振り出したりする場合もあります。

商品販売と同時に手形を受け取った

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
受取手形 80,000 売上 80,000

商品仕入と同時に手形を振り出した

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 90,000 支払手形 90,000

問題文が「掛けで売買した後に手形へ振替」としているのか、「売買時に直接手形を授受」としているのかを確認します。

小切手との違い

受け取ったもの 科目 判断
他人振出し小切手 現金 直ちに換金でき、簿記上の現金に含まれる
約束手形 受取手形 記載された将来の支払期日に代金を受け取る

「他人が振り出した紙」であっても、小切手と約束手形では科目が異なります。名称と支払期日を確認します。

受取手形記入帳

受取手形記入帳は、受け取った手形の相手先、金額、振出日、支払期日、支払場所、取立の結果などを管理する補助簿です。

記入例

金額単位:円

手形番号 振出人 振出日 支払期日 金額 支払場所 てん末
R-101 山田商店 4/10 6/30 300,000 A銀行 6/30取立済
R-102 鈴木商店 5/20 8/31 180,000 B銀行 未決済
R-103 高橋商店 6/5 9/30 120,000 A銀行 未決済

未決済の受取手形残高は次のとおりです。

180,000円+120,000円=300,000円

取立済みのR-101は残高に含めません。

支払手形記入帳

支払手形記入帳は、会社が振り出した手形の受取人、金額、振出日、支払期日、支払場所、決済結果などを管理する補助簿です。

記入例

金額単位:円

手形番号 受取人 振出日 支払期日 金額 支払場所 てん末
P-201 佐藤商店 5/15 7/31 240,000 当座預金A銀行 7/31支払済
P-202 伊藤商店 6/10 8/31 160,000 当座預金A銀行 未決済
P-203 渡辺商店 6/25 10/31 90,000 当座預金B銀行 未決済

未決済の支払手形残高は次のとおりです。

160,000円+90,000円=250,000円

手形記入帳の確認ポイント

  • 振出日と支払期日を取り違えていないか
  • 受取手形記入帳では振出人を管理しているか
  • 支払手形記入帳では受取人を管理しているか
  • 取立済・支払済の手形を残高から除いたか
  • 仕訳帳・総勘定元帳の残高と補助簿合計が一致するか

手形貸付金・手形借入金

商品代金ではなく、金銭そのものの貸借に約束手形を使用した場合は、手形貸付金手形借入金を使います。

手形貸付金

取引:取引先へ1,200,000円を普通預金から貸し付け、同額の約束手形を受け取った。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
手形貸付金 1,200,000 普通預金 1,200,000

商品販売の代金として受け取った手形ではないため、受取手形ではありません。

手形借入金

取引:銀行から3,000,000円を借り入れ、同額の約束手形を振り出した。借入期間8か月、年利率3%で、利息は差し引かれ、手取額は当座預金へ入金された。

利息は次のとおりです。

3,000,000円×3%×8÷12=60,000円

手取額は次のとおりです。

3,000,000円−60,000円=2,940,000円

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
当座預金 2,940,000 手形借入金 3,000,000
支払利息 60,000

手形借入金は元本3,000,000円です。差し引かれた利息を元本から減額せず、支払利息へ分けます。

4科目の使い分け

手形が生じた原因 受け取る側 支払う側
商品売買 受取手形 支払手形
金銭貸借 手形貸付金 手形借入金

3級で扱わない主な論点

2026年度の3級では、次のような処理は本章の学習対象に含めません。

  • 手形の裏書譲渡
  • 手形の割引
  • 手形の更改・書換え
  • 手形の不渡

問題演習では、3級範囲である振出・受入・取立・支払、手形記入帳、手形貸付金・手形借入金へ集中します。

よくある誤り

誤り1:受取人を名宛人と説明する

約束手形で支払を受ける人は受取人です。振出人は支払を約束する人です。

誤り2:売掛金を受取手形へ振り替えるときに売上を再計上する

売上は販売時に計上済みです。債権の種類を振り替えるだけです。

誤り3:買掛金を支払手形へ振り替えるときに仕入を再計上する

仕入は購入時に計上済みです。債務の種類を振り替えます。

誤り4:受取手形を現金にする

約束手形は将来の期日に受け取る権利なので受取手形です。他人振出し小切手とは異なります。

誤り5:支払期日の取立・支払の方向を逆にする

取立は預金/受取手形、支払は支払手形/預金です。

誤り6:手形借入金を手取額で計上する

手形借入金は元本額です。差し引かれた利息は支払利息へ分けます。

誤り7:決済済み手形を補助簿残高へ含める

てん末欄を確認し、未決済手形だけを残高へ含めます。

最終チェックリスト

  1. 振出人と受取人を区別したか
  2. 手形が商品売買か金銭貸借から生じたか確認したか
  3. 受取手形・支払手形の増減方向は正しいか
  4. 売掛金・買掛金の振替で売上・仕入を再計上していないか
  5. 取立は預金/受取手形、支払は支払手形/預金か
  6. 支払期日と金額を手形記入帳へ正しく記録したか
  7. 決済済み手形を残高から除いたか
  8. 手形貸付金・手形借入金と営業手形を区別したか
  9. 元本と利息を分けたか
  10. 借方合計と貸方合計が一致しているか

次の7-2「電子記録債権・電子記録債務」では、掛債権・掛債務を電子記録へ振り替え、支払期日に決済する流れを扱います。


適用年度: 2026年度

最終確認日: 2026年7月18日

主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」「商業簿記標準・許容勘定科目表」

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