6-1 法務
法務
ITを利用する業務では、著作物、個人情報、営業秘密、契約、電子取引など、複数の権利と法令が関係します。ITパスポートでは法律名の暗記だけでなく、「何を保護する法律か」「誰にどの義務があるか」「具体的な行為が適切か」を判断する問題が出題されます。
この節の目標は、知的財産、個人情報、セキュリティ関連法規、契約・取引法規を業務場面に当てはめ、確認すべき権利者、利用目的、契約関係、責任主体を整理できるようになることです。
本節は試験学習用の概要です。実際の契約や法的判断では、適用時点の法令、公式ガイドライン、専門家の確認が必要です。
1. 知的財産権を保護対象で区別する
| 権利 | 主な保護対象 | 発生・取得の基本 |
|---|---|---|
| 特許権 | 技術的な発明 | 出願・審査・登録が必要 |
| 実用新案権 | 物品の形状・構造・組合せに関する考案 | 出願・登録が必要 |
| 意匠権 | 物品、建築物、画像などのデザイン | 出願・審査・登録が必要 |
| 商標権 | 商品・サービスを区別する名称、ロゴ、標章 | 出願・審査・登録が必要 |
| 著作権 | 思想・感情を創作的に表現した文章、画像、音楽、プログラムなど | 原則として創作時に発生する |
著作権はアイデアや単なる事実そのものではなく、創作的な表現を保護します。プログラムのソースコードは表現として保護され得ますが、アルゴリズムやプログラム言語そのものを著作権が独占するわけではありません。
2. 他人のコンテンツを利用する判断手順
- 利用したいものが著作物に当たるか確認する。
- 保護期間内か、権利者は誰か確認する。
- 引用など法令上の例外に該当するか確認する。
- ライセンスや利用規約で許された範囲を確認する。
- 必要なら権利者の許諾を得る。
- 氏名表示、改変、再配布、商用利用などの条件を守る。
完全ケース:他社Webサイトの図を研修資料へ使う
社員が他社Webサイトの図を見つけ、「インターネットで公開されているから自由に使える」と考え、社内研修資料へコピーしようとしています。
適切な対応は、公開されていることと自由利用できることを区別し、著作物性、利用規約、引用要件、ライセンス、許諾の必要性を確認することです。出典を書くだけで、どのような利用でも自動的に許されるわけではありません。
一方、単なる数値データや事実は著作物に当たらない場合がありますが、データの選択・配列や図表の表現に創作性があれば保護対象となる可能性があります。
3. 個人情報を取扱いの流れで確認する
| 段階 | 確認する内容 | 対応例 |
|---|---|---|
| 取得 | 利用目的をできる限り特定し、適正に取得する | 申込画面で利用目的を示す |
| 利用 | 特定した目的の範囲で取り扱う | 関係のない広告用途へ流用しない |
| 保管 | 漏えい、滅失、毀損を防ぐ | 権限、暗号化、ログ、教育、物理管理 |
| 委託 | 委託先を適切に選び、監督する | 契約、取扱状況の確認、再委託管理 |
| 第三者提供 | 本人同意や法令上の条件を確認する | 提供記録や同意手続を管理する |
| 廃棄 | 不要になった情報を安全に削除・廃棄する | 媒体消去、溶解、廃棄証明 |
個人情報、個人データ、保有個人データは同じ意味ではありません。安全管理措置の対象や開示等の手続は、どの区分に当たるかで異なります。
完全ケース:顧客一覧を誤送信した
担当者が、氏名、メールアドレス、購入履歴を含む顧客一覧を誤った取引先へ送信しました。
初動では次を行います。
- 送信先へ削除を依頼し、閲覧・転送状況を確認する。
- 社内の責任者と対応窓口へ報告する。
- 対象情報、人数、原因、影響を整理する。
- 法令・ガイドライン上の報告対象か判断し、必要な場合は個人情報保護委員会への報告と本人通知を行う。
- 誤送信防止、権限、教育、承認手続などの再発防止策を実施する。
「外部へ出たことを隠す」「担当者だけで処理する」「送信先が削除したので記録しない」は不適切です。
4. 情報セキュリティに関する主な法規
| 法律・制度 | 主な対象 | 代表的な注意点 |
|---|---|---|
| 不正アクセス禁止法 | アクセス制御を回避した不正アクセスなど | 他人のID・パスワードによる侵入や、不正アクセスを助長する行為 |
| 不正競争防止法 | 営業秘密の不正取得・使用・開示など | 秘密管理性、有用性、非公知性を満たす管理が重要 |
| サイバーセキュリティ基本法 | 国のサイバーセキュリティ施策の基本 | 国、重要インフラ、関係主体の基本的な枠組み |
| 情報流通プラットフォーム対処法 | 大規模プラットフォームにおける権利侵害情報への対応 | 削除対応の迅速化や運用状況の透明化 |
会社の機密資料へ「社外秘」と表示するだけで営業秘密として十分とは限りません。アクセス制限、秘密保持契約、持出し管理、教育などを組み合わせ、秘密として管理している実態が必要です。
5. 契約形態と指揮命令を区別する
| 契約 | 主な目的 | 発注側の関わり方 |
|---|---|---|
| 請負 | 仕事の完成と成果物の引渡し | 作業者へ直接指揮命令せず、受注者が業務を管理する |
| 準委任 | 専門業務などの遂行 | 完成を約束する契約とは限らず、受任者が業務を遂行する |
| 労働者派遣 | 派遣労働者が派遣先の指揮命令で働く | 派遣先が業務上の指示を行う |
| 秘密保持契約 | 開示情報の秘密保持 | 対象、目的、例外、期間、返却・廃棄を定める |
| ソフトウェアライセンス | ソフトウェアの利用許諾 | 利用台数、ユーザー数、複製、再配布などの条件を守る |
請負契約なのに発注者が受注者の作業者へ直接、日々の作業方法や勤務を指示すると、契約名と実態が一致せず、偽装請負などの問題につながる可能性があります。
6. 中小受託取引適正化法を現行名称で理解する
IPAのシラバス Ver.6.5では、「下請法」を削除し、2026年1月1日施行の 中小受託取引適正化法(取適法) を追加しています。
取適法は、対象となる委託取引で中小受託事業者の利益を保護し、取引を公正にするため、委託内容などの明示、支払期日などの義務と、代金減額、受領拒否、一方的な価格決定などの禁止行為を定めます。対象は資本金・従業員基準と取引内容によって判断するため、単に会社規模が小さいというだけで自動的に適用されるわけではありません。
システム開発を委託するときは、成果物、仕様、検収、支払、変更、知的財産、再委託を明確にし、受託側へ一方的な負担を押し付けないようにします。
7. 電子取引と電子署名
電子署名法では、本人による一定の電子署名が付された電磁的記録について、真正に成立したものと推定する仕組みがあります。電子署名は、本人性と文書が改変されていないことの確認に利用されます。
ただし、「画像の印影を貼った」「メールで名前を入力した」だけで、常に同じ技術的・法的効果になるとは限りません。本人確認、署名方式、証明書、保存、契約上の合意を確認します。
電子取引では、特定商取引法、消費者契約法、電子帳簿保存に関する制度などが関係する場合があります。対象取引と適用条件を確認します。
8. 法務問題の判断手順
- 対象は著作物、個人情報、営業秘密、契約、電子取引のどれか。
- 権利者、本人、委託者、受託者など関係主体を整理する。
- 取得、利用、複製、提供、指揮命令など問題となる行為を特定する。
- 同意、許諾、契約、例外、適用条件を確認する。
- 記録、権限、監督、報告など必要な手続を実施する。
- 法令・ガイドラインの改正と適用時期を確認する。
9. よくある誤りと理由
- Webで公開された画像は自由に使える:公開と利用許諾は別です。
- 出典を書けば必ず転載できる:引用などの要件を満たす必要があります。
- 氏名を削除すれば必ず個人情報ではない:他の情報と容易に照合できる場合などを確認します。
- 委託先へ渡せば自社の責任はなくなる:委託先の選定と監督が必要です。
- 請負契約でも作業者へ直接指示できる:契約の目的と指揮命令関係を確認します。
- 旧称の下請法だけを覚える:Ver.6.5では中小受託取引適正化法として整理します。
- 電子化すれば自動的に法的有効性が高まる:本人確認、方式、証拠保存が重要です。
10. セルフチェック
- 何を保護する権利・法律か説明できるか。
- 著作物の利用許諾と引用などの例外を区別したか。
- 個人情報の取得から廃棄までの取扱いを確認したか。
- 請負、準委任、派遣の指揮命令関係を区別したか。
- 法令名と適用時期が現在のシラバスに合っているか。
理解を確認したら、第6章の練習問題と第6章の知識カードで具体的な行為を判定してください。組織として違反を防ぐ仕組みは、コンプライアンスと標準化で学びます。
公式範囲・法令資料との対応
本節は、IPA「ITパスポート試験シラバス Ver.6.5」の知的財産権、セキュリティ関連法規、労働関連・取引関連法規に対応しています。法令は改正されるため、学習時点の公式資料も確認してください。