5-6 システム企画

最終更新 2026-07-22内容の作り方 →

システム企画

システム企画では、経営・業務上の目的を実現するために、システム化の対象、期待効果、費用、体制、調達方法を具体化します。開発を始めてから目的や範囲を考えるのではなく、投資判断と関係者の合意を形成する上流段階です。

この節の目標は、課題分析からシステム化構想、投資評価、RFI・RFP、提案評価、契約までの流れを説明し、適切な調達判断ができるようになることです。

1. 企画は課題と目的から始める

段階 確認する内容 成果物の例
現状調査 業務、利用者、データ、既存システム、費用 業務フロー、課題一覧
課題分析 原因、影響、優先度、制約 課題構造、改善優先順位
システム化構想 目的、対象範囲、将来像、期待効果 システム化構想書
システム化計画 体制、日程、費用、リスク、調達方法 システム化計画書
投資評価 費用対効果、回収期間、リスク 投資評価資料
調達 情報収集、提案依頼、評価、契約 RFI、RFP、評価表、契約書

「在庫管理システムを導入する」は手段です。目的は、欠品削減、過剰在庫削減、棚卸時間短縮など、測定できる業務成果として定めます。

2. 完全ケース:紙の購買申請を改善する

会社では、備品購入の申請書を紙で回覧しています。申請から承認まで平均5日かかり、進捗を問い合わせる電話も多く発生しています。

現状と課題

  • 申請書がどこにあるか分からない。
  • 金額ごとの承認者を申請者が判断している。
  • 同じ内容を購買台帳へ再入力している。
  • 承認記録の検索に時間がかかる。

目的とKPI

  • 承認期間:平均5日から2日へ短縮
  • 問い合わせ件数:月80件から20件へ削減
  • 再入力作業:月30時間から5時間へ削減
  • 監査時の記録検索:1件15分から1分へ短縮

TO-BE

申請者がWebフォームへ入力し、金額と部門に応じて承認経路を自動設定します。承認状況を画面で確認でき、承認済みデータは購買台帳へ連携します。

このケースでは、単に紙を画像化するのではなく、承認ルール、入力項目、例外処理、保存期間、アクセス権限を設計します。

3. 要件を種類で分ける

要件 内容
業務要件 業務として実現したい成果 承認期間を2日以内にする
機能要件 システムが提供する機能 申請、承認、差戻し、検索、通知
非機能要件 性能、可用性、セキュリティ、運用など 応答3秒以内、権限管理、バックアップ
データ要件 扱うデータ、品質、保存、移行 申請番号、金額、承認履歴、保存期間
制約条件 予算、納期、法令、既存環境 年度内導入、既存認証基盤を利用

非機能要件を後回しにすると、機能は動いても利用者数に耐えない、復旧できない、権限が不適切といった問題が起こります。

4. 費用対効果を比較する

システム投資では、導入費だけでなく、運用、保守、教育、移行、廃棄まで含むTCOを考えます。

例として、初期費用500万円、年間運用費100万円、年間の人件費削減効果250万円、評価期間を3年とします。

  • 3年間の総費用:500万円+100万円×3年=800万円
  • 3年間の総効果:250万円×3年=750万円

この条件だけなら、3年間では費用が効果を50万円上回ります。ただし、処理速度、監査対応、誤発注削減など金額化しにくい効果もあります。逆に、教育負担、移行失敗、ベンダ依存などのリスクも評価します。

金額、期間、計算対象をそろえずに複数案を比較してはいけません。

5. RFI・RFP・見積依頼を区別する

文書・活動 目的 主な内容
RFI 市場、技術、製品、事例の情報を集める 実現方式、標準機能、導入事例
RFP 自社の目的と要件を示し、具体的な提案を求める 範囲、要件、制約、評価方法、提出条件
RFQ・見積依頼 条件を基に価格や納期を確認する 数量、仕様、価格、支払条件
提案書 ベンダが実現方法を提示する 構成、体制、日程、費用、リスク

RFIは情報収集、RFPは提案依頼です。要件が曖昧なまま価格だけを求めると、各社の前提が異なり、公平に比較できません。

6. RFPに含める内容

  • 背景、現状、解決したい課題
  • 目的、KGI・KPI
  • 対象業務と対象外の範囲
  • 業務・機能・非機能・データ要件
  • 既存システムとの連携、移行条件
  • 体制、役割分担、想定スケジュール
  • セキュリティ、法令、運用、保守条件
  • 提案書の形式、期限、問い合わせ方法
  • 評価項目と選定手続

特定製品の機能をそのまま要件として書くと、目的に合う別方式を排除する場合があります。必須条件と希望条件を区別します。

7. 提案を総合評価する

評価観点 確認する内容
要件適合 必須要件を満たすか、前提や未対応事項は何か
実現性 技術、体制、日程が現実的か
費用 初期費用、運用費、追加費用、TCO
品質・運用 テスト、監視、障害対応、保守、教育
セキュリティ 認証、権限、ログ、データ保護、委託先管理
移行 データ移行、切替え、旧システム停止、切戻し
ベンダ 実績、担当者、継続性、再委託、財務・供給能力

価格に重みを付ける場合でも、必須要件を満たさない提案を最安値だけで選ぶのは不適切です。評価基準を提案受付後に変えると、公平性も損なわれます。

8. 契約と責任分担を確認する

契約では、作業範囲、成果物、検収条件、費用、納期、変更手続、知的財産権、秘密保持、個人情報、再委託、障害対応、契約終了時のデータ返却などを明確にします。

  • 請負契約:仕事の完成を目的とする。
  • 準委任契約:一定の業務を善良な管理者の注意をもって遂行する。
  • 労働者派遣契約:派遣先が派遣労働者へ指揮命令する。

契約名だけでなく、実際の指揮命令、成果物、責任分担を確認します。変更要求は口頭で進めず、影響を評価して正式に合意します。

9. 調達の判断手順

  1. 経営・業務上の目的とKPIを決める。
  2. 現状、課題、対象範囲、制約を明確にする。
  3. 内製、外部委託、パッケージ、クラウドなどを比較する。
  4. 必要に応じてRFIで情報を集める。
  5. RFPへ要件と評価基準を記載する。
  6. 同じ基準で提案を比較し、前提とリスクを確認する。
  7. 契約で範囲、責任、変更、権利、運用を明確にする。
  8. 導入後、KPIとTCOで効果を評価する。

10. よくある誤りと理由

  • 製品導入を目的にする:目的は業務・経営成果です。
  • RFIとRFPを混同する:RFIは情報収集、RFPは具体的な提案依頼です。
  • 初期価格だけで選ぶ:運用、保守、移行、教育を含むTCOを比較します。
  • 機能要件だけを書けばよいと考える:性能、可用性、セキュリティなどの非機能要件も必要です。
  • 提案後に評価基準を変える:公平で説明可能な選定ができなくなります。
  • 口頭で変更を依頼する:費用、納期、品質、責任への影響を正式に合意します。

11. セルフチェック

  • 課題、目的、手段を区別できているか。
  • 業務、機能、非機能、データ、制約の各要件を確認したか。
  • 費用と効果の期間・前提をそろえたか。
  • RFI、RFP、見積依頼の目的を区別したか。
  • 提案評価と契約で責任・変更・権利・運用を確認したか。

理解を確認したら、第5章の練習問題第5章の知識カードで文書と工程を使い分けてください。企画の前提となる全体最適は、システム戦略で確認できます。

公式範囲との対応

本節は、IPA「ITパスポート試験シラバス Ver.6.5」のシステム化計画、要件定義、調達計画・実施に対応し、システム化構想、投資評価、RFI、RFP、提案評価、契約、請負・準委任・労働者派遣などを扱います。

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