3-2 取引から仕訳を完成させる

仕訳を作る9ステップ

取引を仕訳へ変換するときは、次の順序を固定すると、金額や決済条件が変わっても対応しやすくなります。

  1. 取引日と会社側の立場を確認する
  2. 取引の事実を区切る
  3. 変化した項目をすべて拾う
  4. 勘定科目を選ぶ
  5. 5要素のどれかを判断する
  6. 増加・減少・発生を判断する
  7. 借方・貸方を決める
  8. 各科目の金額を確定する
  9. 借方合計と貸方合計を確認する

先に借方・貸方を当てるのではなく、取引事実、勘定科目、分類、増減の順で判断します。

1対1の仕訳と複合仕訳

1対1の仕訳

借方1科目、貸方1科目で記録できる仕訳です。

例:事務所家賃60,000円を普通預金から支払った。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
支払家賃 60,000 普通預金 60,000
  • 支払家賃:費用の発生 → 借方
  • 普通預金:資産の減少 → 貸方

複合仕訳

借方または貸方に複数の勘定科目がある仕訳です。

例:備品120,000円を購入し、20,000円を普通預金から支払い、残額を後日支払う。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
備品 120,000 普通預金 20,000
未払金 100,000

勘定科目の数が左右で異なっても問題ありません。重要なのは、借方合計と貸方合計が一致することです。

連続ケースを9ステップで仕訳する

青葉文具株式会社の4月の取引を順番に処理します。

4月1日:出資を受けた

取引:株主から500,000円の出資を受け、普通預金へ入金された。

判断項目 普通預金 資本金
事実 入金された 出資を受けた
5要素 資産 純資産
増減 増加 増加
借貸 借方 貸方
金額 500,000 500,000
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 500,000 資本金 500,000

4月3日:備品を複数の条件で購入した

取引:備品120,000円を購入し、20,000円を普通預金から支払い、残額は後日払いとした。

まず残額を求めます。

120,000円 − 20,000円 = 100,000円

変化 勘定科目 5要素 増減 借貸 金額
備品を取得した 備品 資産 増加 借方 120,000
普通預金から支払った 普通預金 資産 減少 貸方 20,000
残額を後で支払う 未払金 負債 増加 貸方 100,000
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
備品 120,000 普通預金 20,000
未払金 100,000

備品は販売目的の商品ではないため、後払い部分は買掛金ではなく未払金です。

4月5日:商品の手付金を支払った

取引:商品を注文し、手付金30,000円を普通預金から支払った。

この時点では、まだ商品を受け取っていないため仕入は計上しません。後で商品を受け取る権利を前払金として記録します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
前払金 30,000 普通預金 30,000
  • 前払金:資産の増加 → 借方
  • 普通預金:資産の減少 → 貸方

4月8日:商品を受け取り、前払金と複数の決済手段を使った

取引:商品180,000円を受け取り、手付金30,000円を充当し、50,000円を普通預金から支払い、残額は掛けとした。

残額を計算します。

180,000円 − 30,000円 − 50,000円 = 100,000円

変化 勘定科目 5要素 増減 借貸 金額
販売目的の商品を受け取った 仕入 費用 発生 借方 180,000
以前の前払金を充当した 前払金 資産 減少 貸方 30,000
普通預金から支払った 普通預金 資産 減少 貸方 50,000
商品代金を後で支払う 買掛金 負債 増加 貸方 100,000
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 180,000 前払金 30,000
普通預金 50,000
買掛金 100,000

借方合計180,000円と貸方合計180,000円が一致します。

4月12日:売上代金を一部入金、一部掛けとした

取引:商品240,000円を販売し、40,000円は普通預金へ入金され、残額は掛けとした。

掛け部分は次のとおりです。

240,000円 − 40,000円 = 200,000円

変化 勘定科目 5要素 増減 借貸 金額
普通預金へ入金された 普通預金 資産 増加 借方 40,000
後で受け取る権利が生じた 売掛金 資産 増加 借方 200,000
商品を販売した 売上 収益 発生 貸方 240,000
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 40,000 売上 240,000
売掛金 200,000

4月20日:売掛金を回収した

取引:売掛金120,000円が普通預金へ振り込まれた。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 120,000 売掛金 120,000

回収時に売上をもう一度計上してはいけません。売上は4月12日の販売時にすでに発生しています。4月20日は、売掛金という資産が普通預金という別の資産へ変わっただけです。

4月25日:事務所家賃を支払った

取引:事務所家賃60,000円を普通預金から支払った。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
支払家賃 60,000 普通預金 60,000

4月の仕訳一覧

日付 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
4/1 普通預金 500,000 資本金 500,000
4/3 備品 120,000 普通預金 20,000
未払金 100,000
4/5 前払金 30,000 普通預金 30,000
4/8 仕入 180,000 前払金 30,000
普通預金 50,000
買掛金 100,000
4/12 普通預金 40,000 売上 240,000
売掛金 200,000
4/20 普通預金 120,000 売掛金 120,000
4/25 支払家賃 60,000 普通預金 60,000

金額を決める3つの原則

1. 取引対象は総額で記録する

商品180,000円を受け取ったなら、仕入は180,000円です。現金支払額や掛け部分だけを仕入にしてはいけません。

2. 決済方法の合計を取引総額に合わせる

4月8日の貸方は、次の合計です。

前払金30,000円 + 普通預金50,000円 + 買掛金100,000円 = 180,000円

3. 以前計上した権利・義務は、使用・回収・支払時に減らす

  • 前払金を商品代金へ充当する → 前払金を貸方で減らす
  • 売掛金を回収する → 売掛金を貸方で減らす
  • 買掛金や未払金を支払う → 買掛金や未払金を借方で減らす

科目選択の比較

取引対象 決済条件 基本仕訳の相手科目
商品を仕入れた 後日支払う 買掛金
備品を購入した 後日支払う 未払金
商品を販売した 後日受け取る 売掛金
商品以外を売却した 後日受け取る 未収入金
商品の引渡し前 先に支払った 前払金
商品の引渡し前 先に受け取った 前受金

商品売買の詳細は第5章「商品売買」、掛金の管理は第6章「売掛金・買掛金」、その他の債権・債務は第8章で扱います。

条件が変わると仕訳はどう変わるか

変形1:備品を全額普通預金で支払った

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
備品 120,000 普通預金 120,000

未払金は発生しません。

変形2:同じ120,000円でも、販売目的の商品を全額後払いで購入した

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 120,000 買掛金 120,000

取引対象が備品から商品へ変わったため、備品・未払金ではなく仕入・買掛金を使います。

変形3:4月12日の売上代金を全額掛けとした

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 240,000 売上 240,000

普通預金への入金がないため、借方は売掛金だけです。

変形4:4月20日に売掛金全額200,000円を回収した

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 200,000 売掛金 200,000

金額が変わっても、回収取引の構造は変わりません。

誤った仕訳を診断する

誤り1:備品の後払いを買掛金にする

誤った仕訳

(借)備品120,000 / (貸)普通預金20,000・買掛金100,000

原因: 「後払い」という言葉だけを見て、取引対象が商品か商品以外かを確認していません。

修正: 備品は商品以外なので、後払い部分は未払金です。

誤り2:商品受取時に前払金をもう一度増やす

誤った仕訳

(借)仕入150,000・前払金30,000 / (貸)普通預金50,000・買掛金130,000

原因: 注文時と商品受取時を混同しています。前払金は4月5日にすでに増加しており、商品を受け取った4月8日には使用して減少します。

誤り3:売掛金回収時に売上を計上する

誤った仕訳

(借)普通預金120,000 / (貸)売上120,000

原因: 販売時と回収時を混同し、売上を二重計上しています。

修正: 貸方は売掛金です。

誤り4:一部入金を無視して全額売掛金にする

誤った仕訳

(借)売掛金240,000 / (貸)売上240,000

原因: 普通預金への40,000円の入金条件を読み落としています。

誤り5:借貸を合わせるために根拠のない金額を置く

貸借差額は、読み落とした決済条件や計算ミスを探す手掛かりです。差額を理由なく雑費や現金へ入れてはいけません。

貸借平衡で分かること、分からないこと

借方合計と貸方合計の一致は重要な自検ですが、一致しただけで仕訳が正しいとは限りません。

発見しやすい誤り

  • 片側の科目を記入していない
  • 借方と貸方で金額が異なる
  • 複数科目の合計を間違えた

発見できないことがある誤り

  • 取引全体を記録していない
  • 借方と貸方を完全に逆にした
  • 両側へ同じ誤った金額を記入した
  • 金額は合っているが勘定科目を間違えた

仕訳完成後のチェックリスト

  1. 取引日と会社の立場は正しいか
  2. 取引対象をすべて拾ったか
  3. 決済条件をすべて拾ったか
  4. 商品と商品以外を区別したか
  5. 権利と義務を区別したか
  6. 以前の権利・義務を二重計上していないか
  7. 取引総額と決済額の合計は一致するか
  8. 借方合計と貸方合計は一致するか
  9. 回収・支払時に収益や費用を二重計上していないか

次の3-3「仕訳帳から元帳・試算表へ」では、この仕訳を帳簿へ記録し、勘定残高までつなげます。


適用年度: 2026年度

最終確認日: 2026年7月18日

主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」「商業簿記標準・許容勘定科目表」「簿記3級サンプル問題」

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