3-1 取引を会計の変化に分解する
仕訳は、取引を会計の言葉へ翻訳する作業
仕訳(しわけ)とは、日々の取引を勘定科目・借方・貸方・金額に置き換えて記録することです。
このページの目標は、借方と貸方の位置を暗記することだけではありません。取引の文章を読んだときに、次の問いへ順番に答えられるようになることです。
- 会社に何が起きたか
- どの項目が増えた、減った、または発生したか
- その項目をどの勘定科目で表すか
- 借方と貸方のどちらへ記録するか
仕訳では、文章をそのまま覚えるのではなく、取引を「会計上の変化」に分解します。
なぜ必ず借方と貸方があるのか
複式簿記では、1つの取引を少なくとも2つの側面から記録します。
たとえば、株主から500,000円の出資を受け、普通預金へ入金された場合、会社では同時に次の2つの変化が起きます。
- 普通預金という資産が500,000円増える
- 資本金という純資産が500,000円増える
一方だけを記録すると、「お金が増えた理由」または「出資を受けた結果」が帳簿から消えてしまいます。そこで、左側の借方と右側の貸方を使い、同じ取引を両面から記録します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 500,000 | 資本金 | 500,000 |
このように、1つの取引について借方合計と貸方合計は必ず一致します。これを貸借平均の原理といいます。
「2つの科目」とは限らない
1つの取引には借方と貸方の両方がありますが、勘定科目が必ず2つだけとは限りません。
たとえば、備品120,000円を購入し、20,000円を普通預金から支払い、残額を後日支払う場合は、次の3つの変化があります。
- 備品が120,000円増える
- 普通預金が20,000円減る
- 未払金が100,000円増える
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 備品 | 120,000 | 普通預金 | 20,000 |
| 未払金 | 100,000 |
借方は1科目、貸方は2科目です。それでも、借方120,000円と貸方合計120,000円は一致しています。
取引を「2つの科目」に分けるのではなく、2つ以上の会計上の変化へ分けると考えます。
前章の5要素を、借方と貸方へつなげる
勘定科目は、次の5要素に分類されます。
- 資産
- 負債
- 純資産
- 収益
- 費用
それぞれには、増加または発生を記録する基本位置があります。
| 5要素 | 主な意味 | 増加・発生 | 減少・取消し |
|---|---|---|---|
| 資産 | 現金、預金、物、受取る権利 | 借方 | 貸方 |
| 負債 | 後で支払う義務、返済義務 | 貸方 | 借方 |
| 純資産 | 出資や会社の正味財産 | 貸方 | 借方 |
| 収益 | 売上などの稼ぎ | 貸方 | 借方 |
| 費用 | 給料、家賃など当期の負担 | 借方 | 貸方 |
収益と費用の反対側は、返品、訂正、振替などによって取り消す場合にも使います。
取引の8要素
仕訳を判断するときは、5つの分類を次の8つの変化に置き換えると整理しやすくなります。
| 取引の要素 | 記録する側 | 例 |
|---|---|---|
| 資産の増加 | 借方 | 普通預金への入金、売掛金の発生 |
| 資産の減少 | 貸方 | 現金支払、普通預金からの振込 |
| 負債の増加 | 貸方 | 買掛金、未払金、借入金の発生 |
| 負債の減少 | 借方 | 買掛金や借入金の支払・返済 |
| 純資産の増加 | 貸方 | 資本金の増加 |
| 純資産の減少 | 借方 | 純資産を減らす取引 |
| 収益の発生 | 貸方 | 売上、受取利息 |
| 費用の発生 | 借方 | 給料、支払家賃、通信費 |
たとえば「銀行から100,000円を借り入れ、普通預金へ入金された」という取引は、次の組み合わせです。
- 普通預金:資産の増加 → 借方
- 借入金:負債の増加 → 貸方
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 100,000 | 借入金 | 100,000 |
取引文から変化を見つける6つの質問
取引を読んだら、いきなり借方と貸方を決めず、次の質問を使って事実を拾います。
- 何を受け取ったか:現金、預金、備品、商品など
- 何を渡したか:現金、預金、商品など
- 後で受け取る権利が生じたか:売掛金、未収入金など
- 後で支払う義務が生じたか:買掛金、未払金など
- 当期の稼ぎが発生したか:売上、受取手数料など
- 当期の負担が発生したか:給料、支払家賃、通信費など
例:支払方法が複数ある備品購入
取引:備品120,000円を購入し、20,000円を普通預金から支払い、残額は後日支払うこととした。
| 質問 | 読み取る事実 | 勘定科目 | 5要素 | 増減 |
|---|---|---|---|---|
| 何を受け取ったか | 備品を取得した | 備品 | 資産 | 増加 |
| 何を渡したか | 普通預金から支払った | 普通預金 | 資産 | 減少 |
| 後で支払う義務はあるか | 100,000円を後日支払う | 未払金 | 負債 | 増加 |
この表まで作れれば、借方・貸方は5要素のルールから決められます。
勘定科目は「取引対象」と「決済条件」を分けて選ぶ
問題文では、次の2つを分けて読みます。
- 何を買った、売った、受け取ったか
- 代金をどのように決済したか
| 取引の事実 | 基本的に検討する科目 |
|---|---|
| 販売目的の商品を購入した | 仕入 |
| 商品を販売した | 売上 |
| 商品を掛けで販売した | 売掛金 |
| 商品を掛けで仕入れた | 買掛金 |
| 備品など商品以外を後払いで購入した | 未払金 |
| 商品以外を売却し、代金を後日受け取る | 未収入金 |
| 商品を受け取る前に代金を支払った | 前払金 |
| 商品を渡す前に代金を受け取った | 前受金 |
同じ「後払い」でも、販売目的の商品なら買掛金、備品など商品以外なら未払金です。
また、問題で使用する勘定科目の候補が指定されている場合は、その指示を優先します。
前払金と未払金を混同しない
- 前払金:商品をまだ受け取っていない段階で先に支払った金額
- 未払金:備品など商品以外をすでに受け取り、代金を後で支払う義務
どちらも現金や預金の支払と関係しますが、取引の時点が異なります。
| 状況 | 会計上の意味 | 分類 |
|---|---|---|
| 商品を受け取る前に手付金を支払った | 後で商品を受け取る権利 | 前払金・資産 |
| 備品を受け取り、代金を後日払う | 後で代金を支払う義務 | 未払金・負債 |
費用の期間調整に使う前払費用や未払費用は、第10章「見越し・繰延べ」で扱います。
連続ケース:青葉文具株式会社
この章では、青葉文具株式会社の4月の取引を3ページにわたって使用します。商品売買は三分法で処理します。
| 日付 | 取引 |
|---|---|
| 4/1 | 株主から500,000円の出資を受け、普通預金へ入金された |
| 4/3 | 備品120,000円を購入し、20,000円を普通預金から支払い、残額は後日払いとした |
| 4/5 | 商品を注文し、手付金30,000円を普通預金から支払った |
| 4/8 | 商品180,000円を受け取り、手付金30,000円を充当し、50,000円を普通預金から支払い、残額は掛けとした |
| 4/12 | 商品240,000円を販売し、40,000円は普通預金へ入金され、残額は掛けとした |
| 4/20 | 売掛金120,000円が普通預金へ振り込まれた |
| 4/25 | 事務所家賃60,000円を普通預金から支払った |
このページでは、まず各取引から変化を取り出します。次の3-2「取引から仕訳を完成させる」で、すべての仕訳を完成させます。
よくある誤り
誤り1:取引には必ず2科目しかないと思う
借方と貸方の両方は必要ですが、支払方法や内訳が複数なら3科目以上になります。
誤り2:科目名だけを見て借方・貸方を決める
同じ資産科目でも、増加なら借方、減少なら貸方です。科目の分類だけでなく、増減まで確認します。
誤り3:「後払い」はすべて買掛金と考える
買掛金は商品仕入による支払義務です。備品など商品以外の後払いは未払金を検討します。
誤り4:借方と貸方を先に決め、後から科目を当てはめる
先に取引事実と勘定科目を決め、その後で5要素と増減から借貸を判断します。
自分でできる確認
仕訳へ進む前に、次を確認します。
- 取引対象をすべて拾ったか
- 現金・預金・掛け・前払などの決済条件を拾ったか
- 受け取る権利と支払う義務を区別したか
- 商品と商品以外を区別したか
- 各科目の5要素を判断したか
- 各科目が増加、減少、発生のどれかを判断したか
適用年度: 2026年度
最終確認日: 2026年7月18日
主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」「商業簿記標準・許容勘定科目表」「簿記3級サンプル問題」