10-1 4つの決算整理を1つの判断法で理解する
見越し・繰延べは「当期に属する金額」を求める処理
費用や収益を正しい会計期間へ配分するため、決算では、現金を支払った日や受け取った日だけでなく、いつのサービスに対応する金額かを確認します。
この章の目標は、前払費用・前受収益・未払費用・未収収益を別々の暗記項目として覚えることではありません。次の共通手順を使い、金額、日付、取引内容が変わっても判断できるようになることです。
- 費用か収益かを判断する
- 現金の支払・受取がすでに行われたかを確認する
- 契約期間と決算日を確認する
- 当期に属する月数と次期に属する月数を分ける
- 帳簿に記録済みの金額と、当期に属する正しい金額を比較する
- 決算整理仕訳を作る
- P/LとB/Sへの影響を確認する
見越し・繰延べは、現金の動きを修正するのではなく、費用・収益の期間帰属を修正する処理です。
4つの処理を決める2×2の判断表
最初に「費用か収益か」、次に「現金が先か後か」を確認します。
| 対象 | 現金が先に動いている | 現金がまだ動いていない |
|---|---|---|
| 費用 | 費用の繰延べ → 前払費用(資産) | 費用の見越し → 未払費用(負債) |
| 収益 | 収益の繰延べ → 前受収益(負債) | 収益の見越し → 未収収益(資産) |
現金が先に動いている場合
すでに費用または収益を全額記録している中に、次期分が含まれています。次期分を当期のP/Lから除き、B/Sへ移します。これが繰延べです。
現金がまだ動いていない場合
当期分の費用または収益が発生しているのに、帳簿へまだ記録されていません。当期分をP/Lへ追加し、将来の支払義務または受取権利をB/Sへ記録します。これが見越しです。
4科目の意味と分類
| 決算整理科目 | 分類 | 何を表すか |
|---|---|---|
| 前払費用 | 資産 | 次期にサービスを受ける権利 |
| 前受収益 | 負債 | 次期にサービスを提供する義務 |
| 未払費用 | 負債 | 当期分を後で支払う義務 |
| 未収収益 | 資産 | 当期分を後で受け取る権利 |
問題では一般科目ではなく、次のような具体的科目を使用することがあります。
- 前払保険料、前払家賃
- 前受家賃、前受地代
- 未払利息、未払家賃
- 未収利息、未収家賃
問題文に勘定科目候補や指定がある場合は、その指示を優先します。
前払金・前受金との違い
前払金・前受金と、前払費用・前受収益は名前が似ていますが、使用場面が異なります。
| 科目 | 主な場面 | 例 |
|---|---|---|
| 前払金 | 商品などの引渡し前に支払った手付金 | 商品注文時の内金 |
| 前受金 | 商品などの引渡し前に受け取った手付金 | 商品受注時の内金 |
| 前払費用 | 時間の経過に応じて費用になる契約の次期分 | 保険料、家賃 |
| 前受収益 | 時間の経過に応じて収益になる契約の次期分 | 受取家賃、受取地代 |
商品引渡し前の手付金は第8章「その他の債権・債務」、期間配分は本章で扱います。
連続ケース:青葉サポート株式会社
青葉サポート株式会社の会計期間はX7年4月1日からX8年3月31日までです。この章では、次の4取引を使って、4種類の決算整理から翌期の処理まで追います。
| 日付 | 取引 | 期中の処理 |
|---|---|---|
| X7/8/1 | 向こう1年分の保険料240,000円を普通預金から支払った | 全額を保険料として処理 |
| X8/2/1 | 向こう6か月分の家賃600,000円を普通預金で受け取った | 全額を受取家賃として処理 |
| X7/12/1 | 1,200,000円を借り入れた。年利率3%、利息は翌5月31日に後払い | 利息未記帳 |
| X8/1/1 | 900,000円を貸し付けた。年利率4%、利息は翌12月31日に後受け | 利息未記帳 |
このページでは、現金が先に動いた2取引を処理します。
費用の繰延べ:前払保険料
条件を整理する
X7年8月1日に、X7年8月1日からX8年7月31日までの12か月分の保険料240,000円を支払い、全額を保険料として記帳しています。
決算日はX8年3月31日です。
契約期間を当期と次期に分ける
- 当期分:X7年8月〜X8年3月の8か月
- 次期分:X8年4月〜X8年7月の4か月
1か月分は次のとおりです。
240,000円 ÷ 12か月 = 20,000円
当期に属する保険料は次のとおりです。
20,000円 × 8か月 = 160,000円
次期へ繰り延べる金額は次のとおりです。
20,000円 × 4か月 = 80,000円
帳簿金額と正しい当期金額を比較する
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 決算整理前の保険料 | 240,000 |
| 当期に属する正しい保険料 | 160,000 |
| 当期費用から除く金額 | 80,000 |
決算整理前は費用を80,000円多く記録しています。その80,000円を費用から減らし、次期に保険サービスを受ける権利として資産へ振り替えます。
決算整理仕訳
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 前払保険料 | 80,000 | 保険料 | 80,000 |
- 前払保険料:資産が増加するため借方
- 保険料:当期費用を減らすため貸方
整理後残高
- P/Lの保険料:160,000円
- B/Sの前払保険料:80,000円
自検
当期費用160,000円+前払保険料80,000円=支払総額240,000円
収益の繰延べ:前受家賃
条件を整理する
X8年2月1日に、X8年2月1日からX8年7月31日までの6か月分の家賃600,000円を受け取り、全額を受取家賃として記帳しています。
契約期間を当期と次期に分ける
- 当期分:X8年2月・3月の2か月
- 次期分:X8年4月〜7月の4か月
1か月分は次のとおりです。
600,000円 ÷ 6か月 = 100,000円
当期に属する受取家賃は次のとおりです。
100,000円 × 2か月 = 200,000円
次期へ繰り延べる金額は次のとおりです。
100,000円 × 4か月 = 400,000円
帳簿金額と正しい当期金額を比較する
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 決算整理前の受取家賃 | 600,000 |
| 当期に属する正しい受取家賃 | 200,000 |
| 当期収益から除く金額 | 400,000 |
決算整理前は収益を400,000円多く記録しています。次期分を収益から減らし、次期に建物を使用させる義務として負債へ振り替えます。
決算整理仕訳
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 受取家賃 | 400,000 | 前受家賃 | 400,000 |
- 受取家賃:当期収益を減らすため借方
- 前受家賃:次期のサービス提供義務であるため貸方
整理後残高
- P/Lの受取家賃:200,000円
- B/Sの前受家賃:400,000円
自検
当期収益200,000円+前受家賃400,000円=受取総額600,000円
繰延べを解く6ステップ
- 支払・受取の総額を確認する
- 契約開始日と終了日を確認する
- 1か月分の金額を求める
- 当期分と次期分の月数を分ける
- 次期分を費用または収益から除く
- 前払費用または前受収益をB/Sへ計上する
よくある誤り
誤り1:当期分を前払・前受へ振り替える
繰り延べるのは次期分です。契約期間を当期と次期に分けてから計算します。
誤り2:現金や普通預金を決算整理仕訳に使う
現金は期中の支払・受取時にすでに動いています。決算では費用・収益と前払・前受を調整します。
誤り3:前払保険料を費用と考える
前払保険料は、次期に保険サービスを受ける権利なので資産です。
誤り4:前受家賃を収益と考える
前受家賃は、次期に建物を使用させる義務なので負債です。
誤り5:前払金・前受金と混同する
商品引渡し前の手付金と、継続的サービスの期間配分を区別します。
繰延べの検算
- 契約月数の合計は全期間と一致するか
- 当期月数+次期月数=契約月数か
- 当期分+繰延額=支払額または受取額か
- 費用の繰延べは費用が減って資産が増えているか
- 収益の繰延べは収益が減って負債が増えているか
- 借方合計と貸方合計は一致するか
次の10-2「費用・収益の見越し」では、現金がまだ動いていない当期分を追加します。
適用年度: 2026年度
最終確認日: 2026年7月18日
主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」「商業簿記標準・許容勘定科目表」「簿記3級サンプル問題」