9-3 固定資産の売却

固定資産の売却は5つの金額をつなげる

固定資産を売却するときは、売却代金だけを記録するのではありません。取得時から帳簿に残っている取得原価と減価償却累計額を取り消し、売却時の帳簿価額と売却価額の差を固定資産売却益または固定資産売却損として処理します。

このページの目標は、次の5ステップを使って期首売却と期中売却の両方を処理できることです。

  1. 売却日と当期使用月数を確認する
  2. 必要なら当期の減価償却費を計算する
  3. 売却時の帳簿価額を計算する
  4. 売却代金の受取方法を判断する
  5. 取得原価、累計額、売却代金、売却損益を仕訳する

売却仕訳は、売却代金と取得原価の差ではなく、売却代金と売却時帳簿価額の差で損益を判断します。

売却時に使用する主な科目

取引内容 主な科目
現金で受け取った 現金
普通預金へ入金された 普通預金
代金を後日受け取る 未収入金
帳簿価額より高く売却 固定資産売却益
帳簿価額より低く売却 固定資産売却損

固定資産は販売目的の商品ではありません。そのため、売却時に売上売掛金を使いません。後日受け取る代金には、標準科目である未収入金を使用します。

期首売却と期中売却の違い

売却時期 当期減価償却費 売却時累計額
期首に売却 通常は当期分なし 前期末累計額を使用
期中に売却 売却時までの月割額を計上 前期末累計額に当期分を加える

期中売却では、売却日までの当期減価償却費を先に計算しなければ、売却時帳簿価額を正しく求められません。

基本例:期首に備品を売却する

条件

  • 決算日:3月31日
  • X8年4月1日の期首に売却
  • 備品取得原価:800,000円
  • 前期末備品減価償却累計額:500,000円
  • 売却価額:350,000円
  • 代金は普通預金へ入金
  • 間接法

1. 帳簿価額を求める

800,000円 − 500,000円 = 300,000円

2. 売却損益を求める

売却価額350,000円 − 帳簿価額300,000円 = 50,000円

売却価額の方が高いため、50,000円の固定資産売却益です。

3. 仕訳する

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 350,000 備品 800,000
備品減価償却累計額 500,000 固定資産売却益 50,000

借方合計850,000円、貸方合計850,000円で一致します。

なぜ累計額を借方へ書くのか

備品減価償却累計額には、これまで貸方へ積み上げた金額が残っています。備品を売却して帳簿から除くため、累計額を借方へ記入して取り消します。

売却損になる場合

同じ備品を250,000円で売却した場合を考えます。

  • 帳簿価額:300,000円
  • 売却価額:250,000円
  • 差額:50,000円

売却価額が帳簿価額より低いため、固定資産売却損です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 250,000 備品 800,000
備品減価償却累計額 500,000
固定資産売却損 50,000

連続ケース:青葉オフィスサービス株式会社の期中売却

青葉オフィスサービス株式会社は、9-1で取得した備品をX9年8月31日に売却しました。

条件

  • 決算日:3月31日
  • 備品取得原価:660,000円
  • 耐用年数:5年
  • 残存価額:ゼロ
  • 定額法、間接法
  • 前期末減価償却累計額:231,000円
  • X9年8月31日に売却
  • X9年度の使用期間:4月1日から8月31日まで5か月
  • 売却価額:390,000円
  • 代金は翌月受け取る

前期末累計額231,000円の内訳は次のとおりです。

  • 取得初年度9か月分:99,000円
  • 翌年度12か月分:132,000円
  • 合計:231,000円

ステップ1:1年分の減価償却費

660,000円 ÷ 5年 = 132,000円

ステップ2:当期5か月分の減価償却費

132,000円 × 5÷12 = 55,000円

ステップ3:売却時の累計額

前期末累計額231,000円 + 当期分55,000円 = 286,000円

ステップ4:売却時の帳簿価額

取得原価660,000円 − 売却時累計額286,000円 = 374,000円

ステップ5:売却損益

売却価額390,000円 − 帳簿価額374,000円 = 16,000円

売却価額の方が高いため、16,000円の固定資産売却益です。

期中売却の仕訳

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
未収入金 390,000 備品 660,000
備品減価償却累計額 231,000 固定資産売却益 16,000
減価償却費 55,000

借方合計は次のとおりです。

390,000円+231,000円+55,000円=676,000円

貸方合計は次のとおりです。

660,000円+16,000円=676,000円

売却時累計額286,000円を一つの科目で借方にしない理由

前期末までの231,000円はすでに備品減価償却累計額に計上されています。一方、当期5か月分55,000円は当期の費用として減価償却費へ計上します。

  • 前期末累計額231,000円:備品減価償却累計額を借方で取り消す
  • 当期分55,000円:減価償却費を借方で計上する

両方を合わせた286,000円が、売却時までに取得原価から配分済みの金額です。

固定資産台帳を更新する

売却後は固定資産台帳にも売却日と売却内容を記録します。

資産 取得原価 前期末累計額 当期減価償却費 売却時帳簿価額 売却価額 売却損益 売却日
備品 660,000 231,000 55,000 374,000 390,000 益16,000 X9/8/31

売却後、この備品については次の残高が残らないことを確認します。

  • 備品:ゼロ
  • この備品に対応する減価償却累計額:ゼロ
  • 未収入金:代金回収まで390,000円
  • 固定資産売却益:16,000円
  • 当期減価償却費:55,000円

売却代金を回収したとき

翌月、未収入金390,000円が普通預金へ振り込まれた場合は次の仕訳です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 390,000 未収入金 390,000

回収時に固定資産売却益をもう一度計上してはいけません。売却益は売却時にすでに計上されています。

商品売上との違い

比較 商品を販売 固定資産を売却
収益科目 売上 固定資産売却益が生じる場合のみ
後日受取 売掛金 未収入金
原価処理 三分法や売上原価 取得原価と累計額を取り消す
差額 売上総利益計算へ 売却益または売却損

固定資産売却では、売却価額全額を売上にしません。

誤った仕訳を診断する

誤り1:売却価額と取得原価を直接比較する

取得原価660,000円と売却価額390,000円だけを比べて270,000円の売却損とするのは誤りです。減価償却済みの286,000円を考慮し、帳簿価額374,000円と比較します。

誤り2:後日受取を売掛金にする

固定資産は商品ではないため、後日受取は未収入金です。

誤り3:期中売却なのに当期減価償却費を計上しない

当期の使用期間分を反映しなければ、売却時帳簿価額が過大になります。

誤り4:累計額を貸方へ追加する

売却時は固定資産と対応する累計額を帳簿から除くため、既存累計額を借方で取り消します。

誤り5:取得原価ではなく帳簿価額を備品の貸方に書く

間接法では、固定資産科目に取得原価が残っています。貸方の備品は取得原価全額です。

誤り6:売却代金回収時に売却益を再計上する

回収時は普通預金と未収入金の資産振替です。

売却仕訳の検算

  1. 売却日と当期使用月数は明確か
  2. 当期減価償却費を計算したか
  3. 売却時累計額=前期末累計額+当期分か
  4. 売却時帳簿価額=取得原価−売却時累計額か
  5. 売却益または売却損=売却価額と帳簿価額の差か
  6. 現金、普通預金、未収入金を正しく選んだか
  7. 貸方の固定資産は取得原価全額か
  8. 既存累計額を借方で取り消したか
  9. 借方合計と貸方合計は一致するか
  10. 売却後の固定資産と対応累計額が残っていないか

固定資産の決算整理は第11章「決算整理」、試算表・精算表への反映は第12章で確認できます。第9章の練習問題では、取得、台帳、期首売却、期中売却をまとめて練習してください。


適用年度: 2026年度

最終確認日: 2026年7月18日

主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」「商業簿記標準・許容勘定科目表」「簿記3級サンプル問題」

この章の理解を確認しよう
練習問題で知識を定着させましょう
練習問題を解く →