4-4 小口現金と定額資金前渡法
小口現金は少額支出を効率的に管理する仕組み
交通費、郵便代、文房具代などの少額支出のたびに会計係が支払うと、事務処理が煩雑になります。そこで、一定額を小口現金係へ前渡しし、小口現金係が日常の少額支出を行います。
日商簿記3級では、一定額を前渡しし、使用額を補給して元の定額へ戻す定額資金前渡法(インプレスト・システム)を学びます。
このページの目標は、次の4つの時点を区別することです。
- 小口現金の前渡し
- 小口現金係による実際の支払い
- 会計係が支払報告を受ける
- 使用額を補給する
小口現金では、誰が処理するか・報告と補給が別の日か同時かを確認します。
登場する担当者
| 担当者 | 主な役割 |
|---|---|
| 会計係 | 小口現金を前渡しし、報告に基づいて仕訳し、使用額を補給する |
| 小口現金係 | 日常の少額支出を行い、小口現金出納帳などへ記録して会計係へ報告する |
小口現金係が支払った時点では、会計係はまだ支出内容を把握していないため、会社の仕訳帳への仕訳は通常行いません。会計係が報告を受けた時点で費用をまとめて仕訳します。
定額資金前渡法の全体像
| 段階 | 小口現金の状態 | 会計係の仕訳 |
|---|---|---|
| 前渡し | 定額まで増える | 小口現金/当座預金など |
| 小口現金係が支払う | 実際有高が減る | 通常は仕訳なし |
| 支払報告を受ける | 使用内容を帳簿へ反映 | 費用/小口現金 |
| 補給する | 定額へ戻る | 小口現金/当座預金など |
報告と補給が同時なら、報告時と補給時の小口現金が相殺され、費用/当座預金などの一つの仕訳にまとめられます。
連続ケース:青葉サービス株式会社
青葉サービス株式会社は、定額50,000円の小口現金制度を採用しました。
4月1日:小口現金を前渡しした
会計係は50,000円の小切手を振り出し、小口現金係へ渡しました。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 小口現金 | 50,000 | 当座預金 | 50,000 |
- 小口現金:資産の増加
- 当座預金:自社振出し小切手による資産の減少
小口現金係が少額支出を行った
4月中に小口現金係が次の支払いをしました。
| 日付 | 内容 | 科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 4/5 | 電車代 | 旅費交通費 | 8,000 |
| 4/12 | 郵便代 | 通信費 | 3,000 |
| 4/20 | 文房具代 | 消耗品費 | 4,000 |
| 合計 | 15,000 |
支払時の会社仕訳
会計係がまだ報告を受けていない時点では、通常は仕訳なしです。
ただし、小口現金係は管理のため、小口現金出納帳へ支出内容を記録します。
小口現金出納帳
金額単位:円
| 日付 | 摘要 | 受入 | 旅費交通費 | 通信費 | 消耗品費 | 支払合計 | 残高 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 4/1 | 前渡し | 50,000 | 50,000 | ||||
| 4/5 | 電車代 | 8,000 | 8,000 | 42,000 | |||
| 4/12 | 郵便代 | 3,000 | 3,000 | 39,000 | |||
| 4/20 | 文房具代 | 4,000 | 4,000 | 35,000 |
定額50,000円 − 使用額15,000円 = 報告前実際有高35,000円
報告と補給を別の日に行う場合
4月25日:支払報告を受けた
会計係は小口現金係から15,000円の支払報告を受けました。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 8,000 | 小口現金 | 15,000 |
| 通信費 | 3,000 | ||
| 消耗品費 | 4,000 |
報告を受けた時点で費用を計上し、小口現金の帳簿残高を50,000円から35,000円へ減らします。
4月26日:使用額を補給した
翌日、15,000円の小切手を振り出して補給しました。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 小口現金 | 15,000 | 当座預金 | 15,000 |
補給後の小口現金残高は次のとおりです。
35,000円+15,000円=50,000円
定額へ戻りました。
報告と補給を同時に行う場合
4月25日に報告を受け、その場で15,000円を小切手で補給した場合、報告仕訳と補給仕訳の小口現金15,000円が相殺されます。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 8,000 | 当座預金 | 15,000 |
| 通信費 | 3,000 | ||
| 消耗品費 | 4,000 |
二重計上しない
同時処理の問題で、次の両方を記録してはいけません。
- 費用/小口現金
- 小口現金/当座預金
- さらに費用/当座預金
別仕訳2本で処理するか、相殺後の仕訳1本で処理するかのどちらかです。同じ取引を重複して記録しません。
補給額の求め方
定額資金前渡法では、原則として使用額を補給します。
補給額 = 定額 − 補給前の実際有高
本例では次のとおりです。
50,000円 − 35,000円 = 15,000円
支出合計15,000円とも一致します。
支払報告の内訳を科目へ分ける
小口現金の報告では、支払合計だけでなく内容に応じて費用科目を選びます。
| 支出内容 | 主な科目 |
|---|---|
| 電車・バス・タクシー代 | 旅費交通費 |
| 郵便・電話・通信料金 | 通信費 |
| 文房具など消耗品 | 消耗品費 |
| 少額で他の科目に当てはまりにくい支出 | 雑費など |
問題文で科目候補が指定されている場合は、その指示を優先します。
小口現金残高の検算
報告前、報告後、補給後の違いを確認します。
| 時点 | 帳簿上の小口現金 | 実際有高 |
|---|---|---|
| 前渡し直後 | 50,000 | 50,000 |
| 支払後・報告前 | 50,000 | 35,000 |
| 報告後・補給前 | 35,000 | 35,000 |
| 補給後 | 50,000 | 50,000 |
支払後・報告前は、会計係がまだ費用を仕訳していないため、帳簿残高と実際有高に時間差があります。報告時に一致し、補給後は定額へ戻ります。
よくある誤り
誤り1:小口現金係が支払うたびに会計係が仕訳する
会計係は通常、支払報告を受けた時点でまとめて仕訳します。
誤り2:前渡し時に費用を計上する
前渡し時点ではまだ支出内容が確定していません。小口現金という資産の増加です。
誤り3:報告時に小口現金を借方へ書く
報告時は使用額だけ小口現金が減少するため貸方です。
誤り4:補給時に費用をもう一度計上する
報告と補給が別日なら、費用は報告時に計上済みです。補給時は小口現金と預金の資産振替です。
誤り5:報告と補給が同時なのに小口現金を残す
同時処理では小口現金を相殺し、費用/当座預金などの仕訳にまとめられます。
誤り6:支出合計と補給額が一致しない
定額、補給前実際有高、支出合計を再確認します。
最終チェックリスト
- 定額と前渡額を確認したか
- 前渡し時は小口現金を借方にしたか
- 小口現金係の支払時と会計係の報告時を区別したか
- 報告内訳を正しい費用科目へ分けたか
- 報告時の貸方は小口現金か
- 補給時の借方は小口現金か
- 報告と補給が同時なら小口現金を相殺したか
- 二重計上していないか
- 補給額=定額−補給前実際有高か
- 補給後残高が定額へ戻ったか
第4章の練習問題では、現金の範囲、小切手、当座借越、現金過不足、複数口座、小口現金をまとめて確認してください。
適用年度: 2026年度
最終確認日: 2026年7月18日
主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」「商業簿記標準・許容勘定科目表」「簿記3級サンプル問題」