4-5 現金過不足

最終更新 2026-07-20内容の作り方 →

この節の目標

この節では、帳簿上の現金残高と実際有高が一致しない場合に使う現金過不足を、発見時、原因判明時、決算時に分けて学びます。

学習後にできるようになることは次の5つです。

  1. 帳簿残高と実際有高を比べ、不足か超過かを判断できる。
  2. 発見時に、現金を実際有高へ合わせる仕訳を作成できる。
  3. 原因判明時に、現金を再度動かさず、現金過不足を本来の科目へ振り替えられる。
  4. 現金過不足の借方残高・貸方残高をT勘定で追跡できる。
  5. 決算時に原因不明残高を雑損または雑益へ振り替え、現金過不足をゼロにできる。

現金に含めるものと含めないものは4-1「現金の範囲と現金過不足」で確認できます。少額支出を別管理する小口現金は4-4「小口現金と定額資金前渡法」で扱います。決算整理後に精算表へ反映する流れは12-2「精算表」につながります。

対応範囲:日商簿記3級・2026年度 最終確認日:2026年7月20日

現金過不足の位置づけ

現金過不足は、実際に数えた現金と帳簿上の現金残高が一致しないとき、原因が判明するまで差額を一時的に置く仮勘定です。

現金過不足の処理では、次の3段階を分けて考えます。

学習の流れ:差額の発見 → 原因の一部判明 → 原因不明残高の確定 → 雑損・雑益への振替 → 現金過不足残高ゼロ

段階 目的 現金を動かすか
発見時 帳簿上の現金を実際有高へ合わせる 動かす
原因判明時 原因に応じて本来の科目へ振り替える 動かさない
決算時 原因不明残高を雑損・雑益へ振り替える 動かさない

発見時に現金を実際有高へ合わせた後は、原因が分かっても現金をもう一度増減させません。原因判明時に動かすのは、原則として現金過不足と本来使うべき科目です。

判断手順

現金過不足の問題は、次の順に処理します。

  1. 帳簿上の現金残高と実際有高を比べる。
  2. 帳簿残高の方が多ければ現金不足、実際有高の方が多ければ現金超過と判断する。
  3. 発見時は、現金勘定を実際有高へ合わせ、相手科目を現金過不足にする。
  4. 原因が判明したら、その内容について本来あるべき仕訳を考える。
  5. 本来の仕訳に含まれる現金現金過不足に置き換える。
  6. 現金過不足の借方合計と貸方合計を集計し、残高を求める。
  7. 決算日まで原因不明の残高があれば、借方残高は雑損、貸方残高は雑益へ振り替える。
  8. 最後に、現金過不足の残高がゼロになったか確認する。

この流れの中心は、「現金を合わせる処理」と「原因を正しい科目へ直す処理」を混ぜないことです。

連続ケース:青葉商事株式会社

青葉商事株式会社は、2026年3月20日に現金を実査しました。決算日は2026年3月31日です。

日付 内容
2026年3月20日 帳簿上の現金残高126,500円、実際有高121,000円
2026年3月20日 差額5,500円は原因不明のため、現金過不足で処理
調査後 未記帳の水道光熱費3,200円の現金支出が判明
追加調査後 未記帳の現金売上1,000円が判明
2026年3月31日 残額3,300円は原因不明

3月20日:発見時の処理

帳簿上の現金残高は126,500円、実際有高は121,000円です。

不足額=126,500円−121,000円=5,500円

帳簿上は126,500円あることになっていますが、実際には121,000円しかありません。したがって、帳簿上の現金を5,500円減らし、実際有高121,000円へ合わせます。

ただし、この時点では原因が分かっていません。水道光熱費の記帳漏れか、売上の記帳漏れか、単純な紛失か、まだ判断できません。そのため、いきなり費用や損失にせず、相手科目を現金過不足にします。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金過不足 5,500 現金 5,500

この仕訳の役割は、現金勘定を実際有高へ合わせることだけです。原因を確定する処理ではありません。

発見時にまず現金だけを調整する理由

現金は資産です。実際には121,000円しかないのに帳簿に126,500円を残すと、資産を5,500円多く表示してしまいます。したがって、不一致を発見した時点で、現金勘定は必ず実際有高へ合わせます。

一方、原因が不明な段階で雑損水道光熱費売上などへ直接処理すると、後で本当の原因が分かったときに科目を訂正しなければなりません。現金過不足は、その原因調査中の差額を一時的に受け止めるための科目です。

発見時の基本形は次のとおりです。

比較結果 意味 発見時の仕訳
帳簿残高が実際有高より多い 現金不足 現金過不足/現金
実際有高が帳簿残高より多い 現金超過 現金/現金過不足

原因判明時の処理

水道光熱費3,200円の現金支出が未記帳だった

調査の結果、水道光熱費3,200円を現金で支払っていたのに、仕訳していなかったことが分かりました。

最初から原因が分かっていたなら、本来の仕訳は次の形です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
水道光熱費 3,200 現金 3,200

しかし、現金は発見時にすでに5,500円減らして、実際有高121,000円へ合わせています。ここでさらに現金を貸方にすると、同じ現金支出を二重に減らすことになります。

したがって、原因判明時は本来の仕訳にある現金現金過不足に置き換えます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
水道光熱費 3,200 現金過不足 3,200

この仕訳後の現金過不足は、借方5,500円、貸方3,200円です。

借方5,500円−貸方3,200円=借方残高2,300円

借方残高2,300円は、まだ説明できていない現金不足です。

現金売上1,000円が未記帳だった

追加調査により、現金売上1,000円を記帳していなかったことが分かりました。

本来の仕訳は次の形です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 1,000 売上 1,000

ここでも、現金は発見時に実際有高へ合わせています。原因判明時に現金を借方にすると、実際には増えていない現金を帳簿上だけ増やしてしまいます。

したがって、本来の仕訳にある現金現金過不足に置き換えます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金過不足 1,000 売上 1,000

現金過不足の残高は次のように計算できます。

借方5,500円+借方1,000円−貸方3,200円=借方残高3,300円

未記帳の現金売上は「現金収入の記帳漏れ」です。本来なら帳簿上の現金を増やす原因なので、原因判明時には現金過不足を借方へ置きます。その結果、今回のような不足ケースでは、説明できない不足額が2,300円から3,300円へ増えます。

T勘定で残高を確認する

金額単位:円

現金過不足(借方) 金額 現金過不足(貸方) 金額
不足発見 5,500 水道光熱費判明 3,200
現金売上判明 1,000
借方合計 6,500 貸方合計 3,200
借方残高 3,300

現金過不足は借方合計6,500円、貸方合計3,200円です。差額3,300円が借方に残ります。

借方残高は、原因不明の現金不足が残っていることを意味します。現金が不足しているのに原因が分からないため、決算では損失性の科目である雑損へ振り替えます。

3月31日:決算時の処理

2026年3月31日になっても、現金過不足の借方残高3,300円の原因は分かりませんでした。

現金過不足は仮勘定であり、決算後の貸借対照表や損益計算書にそのまま残す科目ではありません。決算整理では、原因不明残高を雑損または雑益へ振り替え、現金過不足の残高を必ずゼロにします。

今回の借方残高3,300円は原因不明の不足なので、雑損へ振り替えます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
雑損 3,300 現金過不足 3,300

振替後の現金過不足は次のとおりです。

借方6,500円−貸方6,500円=0円

これで現金過不足は残りません。精算表へ進む場合も、現金過不足ではなく、判明した水道光熱費売上、原因不明分の雑損として反映します。

反対例:実際有高が多い場合

実際有高が帳簿残高より多い場合は、青葉商事株式会社の不足ケースと反対方向に処理します。

帳簿上の現金残高80,000円、実際有高84,500円でした。

超過額=84,500円−80,000円=4,500円

実際有高の方が4,500円多いため、発見時は帳簿上の現金を4,500円増やします。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 4,500 現金過不足 4,500

この時点で、現金過不足は貸方残高4,500円です。

その後、売掛金2,000円を現金で回収していたのに記帳していなかったことが分かりました。本来の仕訳は次の形です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 2,000 売掛金 2,000

しかし、現金は発見時にすでに増やしています。原因判明時は、現金の代わりに現金過不足を借方へ置きます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金過不足 2,000 売掛金 2,000

残高は次のとおりです。

貸方4,500円−借方2,000円=貸方残高2,500円

貸方残高2,500円は、原因不明の現金超過です。決算まで原因が分からなければ、雑益へ振り替えます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金過不足 2,500 雑益 2,500

これで現金過不足はゼロになります。

貸方4,500円−借方4,500円=0円

雑損と雑益の使い分け

決算時の判断は、現金過不足の残高が借方か貸方かで決まります。

決算直前の現金過不足残高 意味 決算整理仕訳
借方残高 原因不明の現金不足が残っている 雑損/現金過不足
貸方残高 原因不明の現金超過が残っている 現金過不足/雑益

雑損雑益を使うのは、決算まで原因が分からなかった残額だけです。原因が判明した部分は、水道光熱費、通信費、旅費交通費、消耗品費、売上、売掛金など、本来の科目で処理します。

変形条件への対応

現金過不足は、問題文の条件が少し変わるだけで借貸の向きが変わります。次の表で、判断の軸を固定してください。

変形条件 判断のポイント 仕訳の考え方
帳簿残高の方が多い 現金不足 発見時は現金過不足/現金
実際有高の方が多い 現金超過 発見時は現金/現金過不足
未記帳の現金支出が判明 本来は費用など/現金 現金の代わりに現金過不足を貸方へ
未記帳の現金収入が判明 本来は現金/収益・債権など 現金の代わりに現金過不足を借方へ
原因が全額判明した 現金過不足に残高が残らない 雑損・雑益は使わない
決算前で原因不明 まだ原因調査中 現金過不足を残してよい
決算日になっても原因不明 仮勘定を残せない 雑損または雑益へ振り替える
問題文に「決算にあたり」とある 決算整理仕訳が求められている 現金過不足を必ずゼロにする

特に、未記帳の現金収入が判明したときは注意が必要です。現金収入だからといって、原因判明時に現金を借方へ書くわけではありません。発見時に現金は実際有高へ合わせているため、原因判明時は現金過不足を借方へ書きます。

よくある誤りと誤りの原因

誤り 誤った仕訳・判断 誤りの原因
発見時にすぐ雑損へする 雑損/現金 決算前は原因調査中であり、まず現金過不足を使う段階であるため
原因判明時に現金をもう一度動かす 水道光熱費/現金 現金は発見時に実際有高へ修正済みで、二重に減少するため
未記帳の現金売上を貸方の現金過不足にする 売上/現金過不足など 本来の仕訳は現金/売上であり、現金を置き換えると現金過不足は借方になるため
借方残高を雑益へ振り替える 現金過不足/雑益 借方残高は原因不明の不足であり、雑損で処理するため
貸方残高を雑損へ振り替える 雑損/現金過不足 貸方残高は原因不明の超過であり、雑益で処理するため
決算後も現金過不足を残す 残高を翌期へ繰り越す 現金過不足は仮勘定で、決算整理後にゼロにする必要があるため
原因判明分まで雑損・雑益に含める 判明した水道光熱費まで雑損にする 雑損・雑益は原因不明残高だけに使い、判明分は本来の科目へ振り替えるため
差額の符号だけで借貸を決める 帳簿残高と実際有高の比較を省く 不足か超過かを取り違えると、発見時からすべて逆になるため

誤りの多くは、発見時の「現金を合わせる処理」と、原因判明時の「本来の科目へ直す処理」を同時に考えてしまうことから生じます。まず発見時の処理を独立させ、その後で原因判明分を現金過不足から振り替えると安定します。

自己点検の方法

仕訳を書いた後は、次の順に確認します。

  1. 帳簿残高と実際有高の差額を正しく計算したか。
  2. 発見時の仕訳後、現金勘定が実際有高になっているか。
  3. 原因判明時の仕訳に現金を使っていないか。
  4. 原因判明分を、水道光熱費、売上、売掛金など本来の科目へ振り替えたか。
  5. 現金過不足の借方合計と貸方合計をT勘定で集計したか。
  6. 現金過不足の残高が借方なら不足、貸方なら超過と説明できるか。
  7. 決算時に、借方残高は雑損、貸方残高は雑益へ振り替えたか。
  8. 雑損・雑益に入れた金額は、原因不明残高だけになっているか。
  9. 各仕訳の借方金額と貸方金額が一致しているか。
  10. 最終的に現金過不足の借方合計と貸方合計が一致しているか。

青葉商事株式会社のケースでは、次の結果になっていれば正しく処理できています。

確認対象 正しい結果
発見時の現金残高 121,000円
水道光熱費判明後の現金過不足 借方残高2,300円
現金売上判明後の現金過不足 借方残高3,300円
決算整理後の現金過不足 残高0円

記述式練習1

2026年3月24日、若葉商店の帳簿上の現金残高は98,600円、実際有高は94,900円であった。差額は原因不明であったため、現金過不足で処理した。

その後、未記帳の通信費の現金支出1,200円と、未記帳の現金売上700円が判明した。決算日2026年3月31日になっても残額の原因は不明であった。

次の3点を答えてください。

  1. 発見時の仕訳
  2. 原因判明時の仕訳
  3. 決算時の仕訳と、現金過不足の最終残高

解答1

帳簿残高98,600円、実際有高94,900円なので、現金不足は3,700円です。

不足額=98,600円−94,900円=3,700円

発見時は、帳簿上の現金を実際有高へ合わせます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金過不足 3,700 現金 3,700

通信費1,200円の現金支出が未記帳だった場合、本来は通信費/現金です。現金は発見時に修正済みなので、現金の代わりに現金過不足を貸方へ置きます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
通信費 1,200 現金過不足 1,200

現金売上700円が未記帳だった場合、本来は現金/売上です。現金は再度動かさず、現金の代わりに現金過不足を借方へ置きます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金過不足 700 売上 700

現金過不足の残高は次のとおりです。

借方3,700円+借方700円−貸方1,200円=借方残高3,200円

借方残高3,200円は原因不明の不足なので、決算時に雑損へ振り替えます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
雑損 3,200 現金過不足 3,200

現金過不足は借方4,400円、貸方4,400円となり、最終残高は0円です。

記述式練習2

2026年3月27日、桜井商事株式会社の帳簿上の現金残高は73,200円、実際有高は78,000円であった。差額は原因不明であったため、現金過不足で処理した。

その後、売掛金3,100円を現金で回収していた記帳漏れと、消耗品費900円の現金支払いの記帳漏れが判明した。決算日2026年3月31日になっても残額の原因は不明であった。

発見時、原因判明時、決算時の仕訳を示し、現金過不足がゼロになることを説明してください。

解答2

帳簿残高73,200円、実際有高78,000円なので、現金超過は4,800円です。

超過額=78,000円−73,200円=4,800円

発見時は、帳簿上の現金を実際有高へ合わせて増やします。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 4,800 現金過不足 4,800

売掛金3,100円を現金で回収していた場合、本来は現金/売掛金です。現金は発見時に修正済みなので、現金の代わりに現金過不足を借方へ置きます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金過不足 3,100 売掛金 3,100

消耗品費900円を現金で支払っていた場合、本来は消耗品費/現金です。現金は再度動かさず、現金の代わりに現金過不足を貸方へ置きます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
消耗品費 900 現金過不足 900

現金過不足の残高は次のとおりです。

貸方4,800円+貸方900円−借方3,100円=貸方残高2,600円

貸方残高2,600円は原因不明の超過なので、決算時に雑益へ振り替えます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金過不足 2,600 雑益 2,600

現金過不足は貸方5,700円、借方5,700円となり、最終残高は0円です。

次に確認する内容

現金過不足の処理は、現金の範囲を押さえていることが前提です。必要に応じて4-1「現金の範囲と現金過不足」へ戻り、小口現金との違いは4-4「小口現金と定額資金前渡法」で確認してください。決算整理後の表示は12-2「精算表」で復習できます。

演習では、第4章の練習問題で現金、小切手、預金、小口現金、現金過不足をまとめて確認してください。復習には第4章の知識カード知識カード「現金過不足」知識カード「現金不足」知識カード「雑損・雑益」が対応します。


適用年度: 2026年度

最終確認日: 2026年7月20日

主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」「商業簿記標準・許容勘定科目表」「簿記3級サンプル問題」

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