4-1 現金の範囲と現金過不足
簿記上の現金は、紙幣と硬貨だけではない
簿記で現金として処理するものは、手元の紙幣・硬貨だけではありません。すぐに支払手段として使用できるものや、金融機関などで直ちに現金化できるものも含みます。
このページの目標は、次の作業を自分でできることです。
- 問題文に出てくるものが現金かどうか判断する
- 小切手の振出人を確認して科目を選ぶ
- 現金出納帳の帳簿残高を計算する
- 帳簿残高と実際有高の差を現金過不足で処理する
- 原因判明時と決算時の処理を区別する
現金の問題では、物の名称だけでなく、誰が振り出したか・すぐ換金できるか・帳簿残高と実際有高のどちらが多いかを確認します。
現金として扱うもの
| 内容 | 簿記上の処理 | 理由 |
|---|---|---|
| 紙幣・硬貨 | 現金 | そのまま支払える |
| 他人振出しの小切手 | 現金 | 金融機関で直ちに換金できる |
| 送金小切手 | 現金 | 直ちに換金できる |
| 郵便為替証書 | 現金 | 郵便局などで換金できる |
| 期限の到来した公社債の利札 | 現金 | 支払期限が到来し、換金できる |
現金として扱わない代表例
| 内容 | 主な科目・判断 |
|---|---|
| 自社が振り出した小切手 | 当座預金の減少 |
| 約束手形を受け取った | 受取手形 |
| 収入印紙や未使用切手 | 貯蔵品などを検討 |
| 普通預金・当座預金 | 各預金科目 |
2026年度の日商簿記3級では、紙の小切手を使った取引も現行範囲として扱います。問題文の振出人と受取人を読み落とさないようにします。
小切手を見たら「誰が振り出したか」を確認する
他人振出しの小切手を受け取った
取引:売掛金84,000円の回収として、得意先振出しの小切手を受け取った。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 84,000 | 売掛金 | 84,000 |
得意先が振り出した小切手は、受け取った会社にとって直ちに換金できるため現金です。
自社振出しの小切手を渡した
自社が小切手を振り出して支払った場合は、手元の現金ではなく当座預金が減少します。詳しくは4-2「当座預金・小切手・当座借越」で扱います。
連続ケース:青葉サービス株式会社
青葉サービス株式会社の4月の現金取引を追います。
| 日付 | 取引 |
|---|---|
| 4/1 | 現金120,000円を繰り越した |
| 4/3 | 売掛金84,000円の回収として得意先振出し小切手を受け取った |
| 4/4 | 4/3に受け取った小切手84,000円を当座預金へ預け入れた |
| 4/8 | 消耗品12,000円を現金で購入した |
| 4/15 | 受取手数料25,000円を現金で受け取った |
仕訳
| 日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 4/3 | 現金 | 84,000 | 売掛金 | 84,000 |
| 4/4 | 当座預金 | 84,000 | 現金 | 84,000 |
| 4/8 | 消耗品費 | 12,000 | 現金 | 12,000 |
| 4/15 | 現金 | 25,000 | 受取手数料 | 25,000 |
現金出納帳で残高を確認する
金額単位:円
| 日付 | 摘要 | 収入 | 支出 | 残高 |
|---|---|---|---|---|
| 4/1 | 前月繰越 | 120,000 | 120,000 | |
| 4/3 | 売掛金 | 84,000 | 204,000 | |
| 4/4 | 当座預金 | 84,000 | 120,000 | |
| 4/8 | 消耗品費 | 12,000 | 108,000 | |
| 4/15 | 受取手数料 | 25,000 | 133,000 |
現金残高 = 前の残高 + 収入 − 支出
4月15日時点の帳簿残高は133,000円です。
現金過不足とは
現金を実際に数えた金額を実際有高、帳簿上の残高を帳簿残高といいます。両者が一致しないとき、原因が分かるまで一時的に現金過不足を使います。
現金過不足は、最終的な資産・負債・費用・収益ではなく、原因調査中の仮の勘定です。
不足が判明したとき
4月30日に現金を数えたところ、帳簿残高96,500円に対し、実際有高は91,800円でした。
不足額 = 96,500円 − 91,800円 = 4,700円
帳簿の現金を実際有高まで減らします。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金過不足 | 4,700 | 現金 | 4,700 |
- 現金:帳簿残高を減らすため貸方
- 現金過不足:不足原因を調査するため借方
原因が判明したとき
調査の結果、不足4,700円のうち3,200円はタクシー代の記帳漏れと判明しました。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 3,200 | 現金過不足 | 3,200 |
現金は不足判明時にすでに実際有高へ修正済みです。原因判明時に現金をもう一度減らしません。
現金過不足の残高は次のとおりです。
4,700円 − 3,200円 = 借方残高1,500円
決算まで原因不明だったとき
不足の残額1,500円が決算まで不明なら、雑損へ振り替えます。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 雑損 | 1,500 | 現金過不足 | 1,500 |
決算後に現金過不足を残さないようにします。
実際有高の方が多い場合
帳簿残高50,000円に対し実際有高52,000円なら、現金が2,000円多い状態です。
発見時
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 2,000 | 現金過不足 | 2,000 |
決算まで原因不明
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金過不足 | 2,000 | 雑益 | 2,000 |
- 不足の原因不明残高:雑損
- 超過の原因不明残高:雑益
現金過不足の4ステップ
- 帳簿残高と実際有高を比較する
- 現金勘定を実際有高へ合わせる
- 原因判明分を正しい科目へ振り替える
- 決算まで原因不明の残高を雑損または雑益へ振り替える
よくある誤り
誤り1:他人振出し小切手を当座預金にする
受け取った時点では現金です。銀行へ預け入れたときに現金から当座預金へ振り替えます。
誤り2:不足を発見した時点で雑損にする
原因調査中は現金過不足を使います。決算まで原因不明だった部分だけを雑損または雑益にします。
誤り3:原因判明時に現金を再度修正する
現金は発見時に実際有高へ修正済みです。原因判明時は現金過不足を減らします。
誤り4:不足と超過の仕訳方向を逆にする
不足なら現金を貸方、超過なら現金を借方へ記入します。
誤り5:現金出納帳の残高をマイナスにする
現金は手元有高を表すため、通常は借方残高です。計算結果が不自然なら収入・支出欄や転記を再確認します。
検算チェック
- 他人振出し小切手を現金として処理したか
- 自社振出し小切手と区別したか
- 現金出納帳の前残高+収入−支出を計算したか
- 現金を実際有高へ合わせたか
- 原因判明分と原因不明分を分けたか
- 決算後に現金過不足残高がゼロになったか
- 借方合計と貸方合計が一致しているか
適用年度: 2026年度
最終確認日: 2026年7月18日
主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」「商業簿記標準・許容勘定科目表」「簿記3級サンプル問題」