5-1 企業活動

最終更新 2026-07-22内容の作り方 →

企業活動

企業活動では、人、物、資金、情報を使って価値を生み出し、その結果を数値で管理します。ITパスポートでは、組織形態、業務改善、会計、損益分岐点、経営指標を個別に暗記するだけでなく、「どの課題を、どの仕組みや指標で管理するか」を判断する力が求められます。

この節の目標は、企業の組織と業務の流れを整理し、KGI・KPI、財務諸表、損益分岐点、ROIなどを用いて改善案を評価できるようになることです。

1. 組織形態を目的で比較する

組織形態 特徴 長所と注意点
職能別組織 営業、製造、経理など機能別に分ける 専門性を高めやすいが、部門間調整が遅くなる場合がある
事業部制組織 製品、顧客、地域ごとに事業部を分ける 市場への対応が速いが、機能や設備が重複しやすい
マトリックス組織 職能別と製品・プロジェクト別を組み合わせる 資源を柔軟に使えるが、指揮命令が複線化しやすい
プロジェクト組織 特定目的のために部門横断で編成する 目標へ集中しやすいが、終了後の配置や知識継承が課題になる

問題文で「専門能力を集約する」とあれば職能別、「製品ごとの利益責任」とあれば事業部制、「二つの軸で所属する」とあればマトリックス組織を検討します。

2. 目標をKGI・KPIへ分解する

KGIは最終的に達成したい成果、KPIはその達成過程を測る重要な指標です。

完全ケース:ECサイトの売上を改善する

会社は「年度末までにEC売上を20%増やす」というKGIを設定しました。売上は概ね、訪問者数、購入率、平均購入単価によって決まります。

  • KPI 1:月間訪問者数を10%増やす
  • KPI 2:購入率を2.0%から2.3%へ上げる
  • KPI 3:平均購入単価を5,000円から5,200円へ上げる
  • KPI 4:定期購入の解約率を下げる

「SNS投稿数」のような活動量だけをKPIにすると、売上との関係が弱い場合があります。KPIはKGIへ至る因果関係を説明でき、定期的に測定できるものを選びます。

3. PDCA・BPM・BPRを使い分ける

手法 目的 適する状況
PDCA 計画、実行、評価、改善を繰り返す 日常業務を継続的に改善する
BPM 業務プロセスを可視化し、継続的に管理する 複数部門にまたがる業務を測定・改善する
BPR 業務の目的から抜本的に再設計する 小さな改善では目標を達成できない
ベンチマーキング 優れた事例と比較して改善点を見つける 自社の水準や差を把握する

紙の申請書の記入欄を一つ減らすのは改善ですが、申請・承認・保存を全てオンライン化し、承認段階そのものを見直すのはBPRに近い取組です。既存手順をそのままシステム化するだけでは、非効率も残ります。

4. 財務諸表を目的で読む

財務諸表 示す内容 読み取る代表例
貸借対照表(B/S) 決算日時点の資産、負債、純資産 財政状態、自己資本、短期支払能力
損益計算書(P/L) 一定期間の収益、費用、利益 売上総利益、営業利益、当期純利益
キャッシュフロー計算書 一定期間の現金・現金同等物の増減 営業、投資、財務活動の資金の流れ

利益が出ていても、売掛金の回収が遅れれば現金不足になることがあります。利益と現金は同じではありません。貸借対照表は「時点」、損益計算書とキャッシュフロー計算書は「期間」を表します。

5. 損益分岐点を計算する

費用は、売上に関係なく発生する固定費と、販売量に応じて増える変動費に分けます。

  • 売上高:1個5,000円×販売数量
  • 変動費:1個3,000円×販売数量
  • 固定費:月400,000円
  • 1個当たり限界利益:5,000円-3,000円=2,000円

損益分岐点販売数量は、次の式で求めます。

損益分岐点販売数量=固定費÷1個当たり限界利益

400,000円÷2,000円=200個です。200個より多く売れば利益が出ます。売価や変動費が変わった場合は、古い限界利益をそのまま使わず再計算します。

売上高で求める場合は、限界利益率を使います。

損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率

6. 投資効果を複数指標で判断する

指標 基本的な考え方 注意点
ROI 投資額に対してどれだけ利益を得たか 計算期間と利益の定義をそろえる
ROE 自己資本に対してどれだけ利益を得たか 借入れの影響も考える
売上高利益率 売上高に対する利益の割合 利益の種類を確認する
回収期間 投資額を効果で回収するまでの期間 長期的な効果やリスクも確認する
TCO 導入から廃棄までの総費用 初期費用だけで比較しない

例えば、システム導入費が300万円、年間のコスト削減額が120万円、年間運用費が20万円なら、年間純効果は100万円です。単純な回収期間は300万円÷100万円=3年です。ただし、保守、教育、移行、更新、停止リスクも含めて判断します。

7. データを使った業務分析

  • ABC分析:金額や重要度の高い項目から重点管理する。
  • パレート図:件数や損失の大きい原因を累積比率とともに示す。
  • 散布図:二つの量の関係を確認する。ただし相関だけで因果関係とは断定しない。
  • ヒストグラム:値の分布、ばらつき、偏りを確認する。
  • 管理図:工程の状態が統計的に安定しているか確認する。

改善の判断手順

  1. 目的とKGIを決める。
  2. 現状の業務フローと数値を測る。
  3. 主要因を分析し、優先順位を付ける。
  4. KPIと改善策を決める。
  5. 実行後、同じ定義で再測定する。
  6. 効果が不足する場合は原因と仮説を見直す。

8. よくある誤りと理由

  • KPIを最終目標と考える:KGIが最終成果、KPIは途中の重要指標です。
  • 売上増加だけで投資成功と判断する:利益、現金、運用費、リスクも確認します。
  • 固定費を販売数量で変動させる:一定範囲では売上に関係なく発生する費用です。
  • 利益とキャッシュを同じと考える:売掛金や設備投資によって差が生じます。
  • 相関があれば原因だと断定する:第三の要因や偶然の可能性があります。
  • BPRを小さな手順改善と考える:BPRは業務目的から抜本的に再設計します。

9. セルフチェック

  • 問題が組織、業務改善、会計、投資評価のどれを求めているか。
  • KGIとKPIの因果関係を説明できるか。
  • 財務諸表の時点情報と期間情報を区別したか。
  • 損益分岐点では固定費と限界利益を正しく使ったか。
  • 投資判断で初期費用だけでなく運用費と効果を含めたか。

理解を確認したら、第5章の練習問題第5章の知識カードで計算と用語の使い分けを確認してください。企業の外部環境と競争戦略は、経営戦略マネジメントへ進みます。

公式範囲との対応

本節は、IPA「ITパスポート試験シラバス Ver.6.5」の企業活動、経営・組織論、OR・IE、会計・財務に対応し、組織形態、KGI・KPI、PDCA、BPR、財務諸表、損益分岐点、ROIなどを扱います。

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