5-5 システム戦略

最終更新 2026-07-22内容の作り方 →

システム戦略

システム戦略は、経営戦略や業務目標を実現するために、情報システムとデータをどのように活用するかを決める方針です。新しいツールを導入すること自体が目的ではなく、顧客価値、業務効率、意思決定、リスク管理などの成果へ結び付ける必要があります。

この節の目標は、現状業務を分析し、全体最適の視点から将来像、システム化対象、データ活用、評価指標を設計できるようになることです。

1. 経営戦略からシステム戦略へつなげる

決める内容
経営戦略 どの市場で、どの価値を提供するか 地域顧客へ当日配送を提供する
事業・業務戦略 どの業務を、どの方法で実現するか 店舗在庫と配送を一体管理する
システム戦略 どの情報と機能で業務を支えるか 在庫、注文、配送状況を統合する
システム企画 対象範囲、費用、体制、調達方法を具体化する SaaS比較、RFP、投資評価を行う

経営目標と関係しないシステム投資は、機能が多くても優先度が高いとは限りません。目標、業務、データ、機能、KPIのつながりを確認します。

2. AS-ISとTO-BEで業務を整理する

  • AS-IS:現在の業務、情報、問題点を可視化した状態。
  • TO-BE:目標達成後の望ましい業務と情報の状態。
  • ギャップ:AS-ISとTO-BEの差。改善施策やシステム要件の根拠になる。

完全ケース:営業報告の全体最適

ある会社では、営業担当者が案件情報を個人の表計算ファイルで管理しています。管理職は週末に各担当者のファイルを集めて集計し、在庫部門には電話で需要を伝えています。

AS-ISの問題は次のとおりです。

  • 同じ顧客名が異なる表記で登録される。
  • 最新の商談状況が管理職へ届くまで時間がかかる。
  • 営業予測と在庫計画が連動しない。
  • 退職者のノウハウが残りにくい。

TO-BEでは、顧客・案件情報を共通のCRMへ登録し、受注見込みを在庫計画へ連携します。営業担当は外出先から更新し、管理職はBI画面で進捗を確認します。

ここで重要なのは、表計算ファイルをそのままWeb化することではありません。顧客コード、案件段階、更新責任、閲覧権限、在庫部門との連携方法を統一します。

3. 業務と情報をモデル化する

表現方法 着目点 適した用途
業務フロー 人や部門の作業と順序 申請、承認、引渡しの流れを確認する
DFD データの流れ、処理、保存先 入力データがどこで処理・保存されるか整理する
ER図 データ同士の関係 顧客、注文、商品の関係を設計する
UML システムの構造や振る舞い 利用者と機能、処理の流れ、クラス関係を示す

図の見た目ではなく、何を明らかにしたいかで選びます。担当部門と作業順序なら業務フロー、データの移動ならDFD、データ項目の関係ならER図です。

4. エンタープライズアーキテクチャで全体最適を考える

EAは、企業全体を複数の視点から整理し、現状から目標状態へ計画的に移行する考え方です。

視点 整理する内容
ビジネスアーキテクチャ 経営目標、組織、業務プロセス 受注から配送までの業務
データアーキテクチャ データの定義、関係、所有者 顧客コード、商品コード、マスタ管理
アプリケーションアーキテクチャ 業務を支えるアプリケーション CRM、在庫、会計、EC
テクノロジアーキテクチャ サーバ、クラウド、ネットワーク、端末 クラウド基盤、認証、接続方式

部門ごとに顧客コードや商品コードが異なると、システムを接続しても全体の分析が難しくなります。全体最適には、共通データと責任分担の設計が必要です。

5. ソリューションを課題で選ぶ

ソリューション 解決する代表的な課題 注意点
ERP 部門ごとに分散した会計・販売・在庫データ 業務とコード体系の標準化が必要
CRM / SFA 顧客・案件情報が担当者に分散している 入力ルールと利用目的を明確にする
SCM 需要、調達、生産、在庫、物流が連動しない 取引先を含む情報共有が必要
ワークフロー 紙の申請、承認状況が見えない 不要な承認段階も見直す
グループウェア 予定、文書、連絡が分散している 情報分類と運用ルールを決める
BI データはあるが意思決定に使えない 元データの品質と指標定義が重要
RPA 定型的な画面操作を繰り返している 例外処理や画面変更への対応が必要

RPAは非効率な業務をそのまま自動化する可能性があります。まず業務の必要性と流れを見直し、その後で自動化対象を選びます。

6. DXとデータ活用を目的で捉える

DXは、デジタル技術やデータを使って、業務だけでなく製品、サービス、顧客体験、組織文化、事業モデルを変革する取組です。紙をPDFへ置き換えるだけでは、必ずしも事業変革にはなりません。

例えば、設備メーカーがセンサから稼働データを収集し、故障前に保守を提案するサービスへ転換すれば、売切り型から継続サービス型へ事業モデルが変わります。

データ活用の判断手順は次のとおりです。

  1. 解決する業務・顧客課題を明確にする。
  2. 必要なデータと取得方法を決める。
  3. 品質、権利、個人情報、セキュリティを確認する。
  4. 分析やAIの出力を業務判断へ組み込む。
  5. KPIで効果と副作用を測定する。
  6. 現場の運用と責任分担を継続的に改善する。

7. システム戦略の評価指標

目的 指標の例
売上・顧客価値 売上、購入率、継続率、顧客満足度
業務効率 処理時間、入力件数、手戻り率、自動化率
品質 誤入力率、不良率、問い合わせ解決率
システム運用 稼働率、応答時間、障害件数、復旧時間
リスク 権限違反、情報漏えい、未承認変更、監査指摘

導入件数やログイン数だけでは、経営成果を説明できない場合があります。利用指標と成果指標を分けて設定します。

8. よくある誤りと理由

  • 最新技術の導入を目的にする:経営課題と成果指標が先です。
  • 現行業務をそのままシステム化する:不要な作業や承認も残ります。
  • 部門ごとに最適化する:企業全体でデータと業務が分断される可能性があります。
  • RPAを全ての自動化に使う:定型性、例外、変更頻度を確認します。
  • DXを単なるデジタル化と考える:顧客価値や事業・組織の変革まで含めて考えます。
  • データを集めれば価値が生まれると考える:目的、品質、分析、業務利用が必要です。

9. セルフチェック

  • 経営目標とシステム施策のつながりを説明できるか。
  • AS-IS、TO-BE、ギャップを区別したか。
  • 問題が業務、データ、アプリケーション、技術のどこにあるか。
  • 部門最適ではなく全体最適になっているか。
  • 導入指標だけでなく業務・経営成果を測るKPIがあるか。

理解を確認したら、第5章の練習問題第5章の知識カードで業務課題と施策を対応させてください。具体的な投資・調達計画は、システム企画で学びます。

公式範囲との対応

本節は、IPA「ITパスポート試験シラバス Ver.6.5」の情報システム戦略、業務プロセス、ソリューションビジネス、システム活用促進・評価に対応し、AS-IS・TO-BE、BPR、EA、業務モデリング、ERP、CRM、SCM、RPA、DX、データ活用を扱います。

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