5-2 経営戦略マネジメント

最終更新 2026-07-22内容の作り方 →

経営戦略マネジメント

経営戦略は、限られた経営資源をどこへ配分し、どの顧客へどの価値を提供するかを決める方針です。ITパスポートでは、SWOT、3C、PEST、PPM、STP、4Pなどの名称だけでなく、分析対象と使う順序を判断する問題が出題されます。

この節の目標は、企業の内部・外部環境を整理し、対象市場、競争方法、マーケティング施策、経営管理システムを一つの戦略として組み立てられるようになることです。

1. 分析手法は対象で使い分ける

手法 分析対象 代表的な問い
PEST分析 政治、経済、社会、技術のマクロ環境 社会全体の変化が事業へどう影響するか
3C分析 Customer、Competitor、Company 顧客、競合、自社の関係はどうなっているか
ファイブフォース分析 業界の競争構造 新規参入、代替品、売手・買手、競合の圧力は強いか
SWOT分析 内部の強み・弱み、外部の機会・脅威 自社の特徴と環境を組み合わせて何をすべきか
バリューチェーン分析 調達、製造、販売、サービスなどの活動 どの活動が顧客価値やコストへ寄与しているか

SWOTの強みと弱みは自社内部、機会と脅威は外部環境です。「市場が拡大している」は機会、「熟練技術者が多い」は強みです。

2. 完全ケース:地域スーパーの宅配事業

地域スーパーA社は、店舗の来客数が減る一方、高齢者世帯から宅配要望が増えているため、新サービスを検討しています。

PEST・3Cで事実を整理する

  • 社会:高齢化と単身世帯の増加
  • 技術:スマートフォン注文、配送ルート最適化
  • 顧客:重い商品を自宅で受け取りたい
  • 競合:大手ECは品ぞろえが広いが、当日配送に制約がある
  • 自社:地域密着、店舗在庫、鮮度への信頼が強み

SWOTから方針を考える

区分 内容
Strength 地域の顧客情報、店舗網、生鮮食品の仕入れ力
Weakness EC開発経験、配送人員が不足
Opportunity 高齢者の宅配需要、行政との地域連携
Threat 大手ECの価格競争、燃料費上昇

A社は、全国規模の品ぞろえで競争するのではなく、対象地域を限定し、生鮮品の当日配送と電話注文支援で差別化する方針を選びました。分析は一覧を作ることが目的ではなく、具体的な戦略へつなげます。

3. 基本的な競争戦略

戦略 内容
コストリーダーシップ 広い市場で低コストを実現する 標準化、大量調達、自動化
差別化 他社と異なる価値を提供する 高品質、ブランド、迅速なサービス
集中 特定の顧客、地域、用途に絞る 高齢者向け地域宅配、専門製品

低価格と高付加価値を同時に掲げるだけでは戦略になりません。どの顧客へ何を提供し、何をしないかを明確にします。

4. PPMで事業へ資源を配分する

PPMは、複数事業を市場成長率と相対的市場占有率の二軸で整理します。

区分 市場成長率 市場占有率 基本的な考え方
花形 高い 高い 成長維持のため投資を続ける
問題児 高い 低い 投資して育てるか撤退するか判断する
金のなる木 低い 高い 生み出す資金を他事業へ活用する
負け犬 低い 低い 継続、縮小、撤退を検討する

PPMだけで事業価値を決めることはできません。事業間の相乗効果、技術、人材、社会的役割なども考慮します。

5. STPから4Pへつなげる

マーケティングでは、最初に誰へ価値を提供するかを決め、その後で具体的な施策を設計します。

  1. Segmentation:顧客を年齢、地域、行動、ニーズなどで分類する。
  2. Targeting:重点的に対応する顧客層を選ぶ。
  3. Positioning:競合と比較して、顧客にどの価値を認識してもらうか決める。
  4. Product:製品・サービス、品質、保証を設計する。
  5. Price:価格、割引、支払条件を決める。
  6. Place:店舗、EC、代理店など提供経路を決める。
  7. Promotion:広告、販売促進、広報、営業活動を行う。

宅配事業の例なら、対象は店舗周辺の高齢者世帯、位置付けは「電話でも注文できる地域密着の当日宅配」です。4Pは、少量セット、月額会員価格、店舗からの配送、店頭・地域紙での案内などを整合させます。

6. 顧客価値を継続的に高める

用語 主な目的 活用例
CRM 顧客との関係を長期的に管理する 購買履歴、問い合わせ、提案履歴を共有する
SFA 営業活動を支援・可視化する 商談、訪問、見込み案件を管理する
MA 見込み顧客へのマーケティング活動を自動化する メール配信、反応に応じた育成
CS 顧客満足を把握する アンケート、苦情、継続率を測る
LTV 一人の顧客が取引期間中にもたらす価値 継続利用と獲得費用を評価する

顧客データを集めるだけではCRMになりません。利用目的を明確にし、適切に管理した上で、対応品質や提案の改善へつなげます。

7. 経営管理システムを目的で選ぶ

システム 管理対象 主な効果
ERP 会計、人事、販売、在庫など企業資源 部門間データを統合し、全体最適を図る
SCM 調達、生産、物流、販売の供給連鎖 在庫、納期、需要への対応を改善する
CRM 顧客との接点と関係 顧客理解、継続率、対応品質を高める
SFA 営業活動 案件進捗と営業ノウハウを共有する
BI 蓄積データの分析・可視化 経営判断を支援する

ERPはソフトウェアを入れるだけで効果が出るものではありません。業務ルール、データ定義、権限、部門間の役割も統一する必要があります。

8. 戦略を作る判断手順

  1. 経営理念と達成したい成果を確認する。
  2. PESTなどで外部環境を把握する。
  3. 3Cやバリューチェーンで顧客、競合、自社を分析する。
  4. SWOTで重要事項を整理する。
  5. 対象市場と競争方法を決める。
  6. STPと4Pで顧客への提供方法を設計する。
  7. KGI・KPIと必要な情報システムを決める。
  8. 実績を測定し、環境変化に応じて見直す。

9. よくある誤りと理由

  • SWOTの機会を自社の長所と考える:機会は外部環境、強みは内部能力です。
  • PPMの二軸を売上高と利益率にする:市場成長率と相対的市場占有率です。
  • 4Pから先に決める:対象顧客と位置付けを定めてから施策を整合させます。
  • CRMを顧客名簿と考える:関係を維持・改善する仕組みと活動です。
  • ERP導入だけで業務が統合されると考える:業務とデータの標準化が必要です。
  • 分析結果を並べるだけで終える:優先順位と具体的な選択へつなげます。

10. セルフチェック

  • 分析対象は社会全体、業界、顧客・競合・自社のどれか。
  • SWOTの内部要因と外部要因を区別したか。
  • 対象顧客と競争方法が一致しているか。
  • STPと4Pの順序を守ったか。
  • システム導入が経営目標とKPIへどう寄与するか説明できるか。

理解を確認したら、第5章の練習問題第5章の知識カードで分析手法を使い分けてください。経営方針を情報システムへ落とし込む方法は、システム戦略で学びます。

公式範囲との対応

本節は、IPA「ITパスポート試験シラバス Ver.6.5」の経営戦略手法、マーケティング、ビジネス戦略と目標・評価、経営管理システムに対応し、SWOT、3C、PEST、ファイブフォース、PPM、STP、4P、CRM、ERP、SCMなどを扱います。

この章の理解を確認しよう
練習問題で知識を定着させましょう