8-4 仮払金・仮受金・立替金・預り金
「未確定」か「他人分」かを区別する
仮払金・仮受金・立替金・預り金は、一時的に使うという点が似ています。しかし、判断理由は異なります。
| 判断 | 支払側・資産 | 受取側・負債 |
|---|---|---|
| 内容や金額がまだ確定していない | 仮払金 | 仮受金 |
| 相手が負担すべき金額を一時的に受け払いする | 立替金 | 預り金 |
何に使ったか未確定なら仮払金、誰の負担か確定していて他人分なら立替金。入金内容が不明なら仮受金、預かった目的が明確なら預り金です。
4科目の意味
| 科目 | 分類 | 何を表すか |
|---|---|---|
| 仮払金 | 資産 | 支払ったが、最終的な内容・金額が未確定 |
| 仮受金 | 負債 | 受け取ったが、入金内容・処理科目が未確定 |
| 立替金 | 資産 | 本来は他人が負担する金額を会社が一時的に支払った |
| 預り金 | 負債 | 他人から預かり、後で納付・返金する金額 |
仮払金:概算額を先に渡す
連続ケース:出張旅費の概算払い
取引:9月1日、従業員の出張にあたり、旅費の概算額50,000円を現金で渡した。
出張前は実際の旅費が確定していません。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 仮払金 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
この時点で50,000円全額を旅費交通費にしません。
出張後に精算した
実際の旅費交通費は46,500円で、従業員から残額3,500円が現金で返金されました。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 46,500 | 仮払金 | 50,000 |
| 現金 | 3,500 |
検算
実費46,500円+返金3,500円=仮払額50,000円
精算後の仮払金残高はゼロです。
実費が仮払額を超えた場合
仮払額50,000円に対し実費が54,000円で、追加4,000円を現金で支払った場合は次の仕訳です。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 54,000 | 仮払金 | 50,000 |
| 現金 | 4,000 |
仮受金:内容不明の入金
連続ケース:入金内容が分からない
取引:9月10日、内容不明の120,000円が普通預金へ振り込まれた。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 120,000 | 仮受金 | 120,000 |
入金があった事実は確定していますが、売掛金回収か、手数料収入か、誤入金かが不明です。内容が判明するまで売上や売掛金を推測して処理しません。
入金内容が判明した
調査の結果、120,000円の内訳は次のとおりでした。
- 売掛金回収:100,000円
- 受取手数料:20,000円
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 仮受金 | 120,000 | 売掛金 | 100,000 |
| 受取手数料 | 20,000 |
普通預金は入金時にすでに増加しています。内容判明時に普通預金をもう一度増やしません。
立替金:他人が負担すべき金額を先に支払う
従業員負担分を会社が立て替えた
取引:従業員が負担すべき資格試験料12,000円を会社が普通預金から支払った。後日、給料から控除する。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 従業員立替金 | 12,000 | 普通預金 | 12,000 |
資格試験料は会社の費用ではなく、従業員本人の負担です。後で回収する権利として従業員立替金を使います。問題の科目候補が立替金だけの場合は、その指示に従います。
従業員から現金で回収した
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 12,000 | 従業員立替金 | 12,000 |
給料から控除する場合は、給料支給仕訳の貸方で従業員立替金を取り崩します。
預り金:他人分を預かり、後で納付する
会社が給料から所得税や社会保険料を差し引いた場合、その金額は会社の収益ではありません。従業員から一時的に預かり、税務署や年金事務所などへ納付する義務です。
給料支給時
取引:10月25日、従業員の給料620,000円から所得税31,000円、社会保険料58,000円、従業員立替金12,000円を差し引き、残額を普通預金から支払った。
手取額は次のとおりです。
620,000円−31,000円−58,000円−12,000円=519,000円
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 給料 | 620,000 | 所得税預り金 | 31,000 |
| 社会保険料預り金 | 58,000 | ||
| 従業員立替金 | 12,000 | ||
| 普通預金 | 519,000 |
給料は控除前の総額620,000円を費用計上します。
- 所得税・社会保険料:会社が預かった負債
- 従業員立替金:会社が持っていた債権の回収
- 普通預金:従業員へ実際に支払う手取額
所得税を納付した
後日、所得税31,000円を普通預金から納付しました。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 所得税預り金 | 31,000 | 普通預金 | 31,000 |
納付時に給料を再計上しません。
社会保険料を納付した
従業員負担分58,000円と、同額の会社負担分58,000円を合わせ、116,000円を普通預金から納付しました。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 社会保険料預り金 | 58,000 | 普通預金 | 116,000 |
| 法定福利費 | 58,000 |
- 従業員負担分:預り金を取り崩す
- 会社負担分:法定福利費という会社の費用
全額を社会保険料預り金にしたり、全額を法定福利費にしたりしません。
仮払金と立替金の比較
| 比較 | 仮払金 | 立替金 |
|---|---|---|
| 支払時の状況 | 最終的な内容・金額が未確定 | 相手の負担額であることが確定 |
| 例 | 出張旅費の概算払い | 従業員の個人負担分を会社が支払う |
| 解消 | 精算して費用・返金・追加払いへ | 相手から回収、給料から控除 |
仮受金と預り金の比較
| 比較 | 仮受金 | 預り金 |
|---|---|---|
| 受取時の状況 | 入金内容・相手・原因が不明 | 誰から何の目的で預かったか確定 |
| 例 | 振込人不明の入金 | 給料から差し引いた所得税 |
| 解消 | 内容判明後に正しい科目へ | 納付・返金時に取り崩す |
章全体の科目選択フロー
- 金銭そのものの貸借か → 貸付金・借入金
- 商品の売買か → 売掛金・買掛金
- 商品以外の売買か → 未収入金・未払金
- 商品引渡し前の手付金か → 前払金・前受金
- 時間の経過による費用・収益か → 前払費用・前受収益・未払費用・未収収益
- 内容や金額が未確定か → 仮払金・仮受金
- 他人分を一時的に負担・預かっているか → 立替金・預り金
- 返還予定の保証金か → 差入保証金
- 他社発行の商品券を受け取ったか → 受取商品券
よくある誤り
誤り1:出張前の概算額を旅費交通費にする
実費が未確定なので、精算までは仮払金です。
誤り2:内容不明入金を売上にする
入金原因が不明なら仮受金です。推測で収益を計上しません。
誤り3:立替金と仮払金を混同する
相手が負担すべき金額と確定しているかを確認します。
誤り4:預り金を会社の収益にする
所得税や社会保険料は後で納付する義務です。
誤り5:給料を手取額だけ計上する
給料費用は控除前総額です。控除項目は貸方へ分けます。
誤り6:社会保険料納付額をすべて預り金とする
会社負担分は法定福利費です。
誤り7:内容判明・精算・納付時に現金や預金を二重計上する
入出金が最初の仕訳で記録済みか、解消時に実際に動くかを確認します。
最終チェックリスト
- 内容・金額は確定しているか
- 会社自身の負担か、他人分か
- 仮払金・仮受金を精算後も残していないか
- 立替金は回収時に消したか
- 給料は控除前総額を計上したか
- 預り金は納付時に取り崩したか
- 社会保険料の従業員負担分と会社負担分を分けたか
- 借方合計と貸方合計が一致しているか
第8章の練習問題では、科目比較、連続取引、精算、給与控除、保証金返還までまとめて確認してください。
適用年度: 2026年度
最終確認日: 2026年7月18日
主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」「商業簿記標準・許容勘定科目表」「簿記3級サンプル問題」