8-1 科目選択の共通判断と貸付金・借入金
その他の債権・債務は「後で受け取る・支払う」だけでは決まらない
債権は、将来お金や商品などを受け取る権利です。債務は、将来お金を支払ったり商品を引き渡したりする義務です。
ただし、問題文に「後日受け取る」「後日支払う」と書かれていても、すべて同じ勘定科目になるわけではありません。取引の目的、相手、内容が確定しているか、商品取引かどうかを順番に確認します。
この章の目標は、科目名を個別に暗記することではありません。次の共通手順を使い、金額や表現が変わっても適切な科目を選べることです。
- 会社が受け取る権利か、支払う義務か
- 商品の売買によるものか
- 金銭そのものの貸借か
- 商品引渡し前の手付金か
- 取引内容や金額が確定しているか
- 会社自身の負担か、他人分を一時的に受け払いしているか
- 時間の経過により発生する費用・収益か
科目選択は、債権か債務か → 取引原因 → 確定・未確定 → 自社分・他人分の順で考えます。
ch8で扱う科目の全体像
| 取引原因 | 受け取る権利・資産 | 支払う義務・負債 |
|---|---|---|
| 金銭の貸借 | 貸付金 | 借入金 |
| 商品以外の売買 | 未収入金 | 未払金 |
| 商品引渡し前の手付金 | 前払金 | 前受金 |
| 他人分を一時的に負担・預かる | 立替金 | 預り金 |
| 内容・金額が未確定 | 仮払金 | 仮受金 |
| 賃貸借契約などの返還予定保証金 | 差入保証金 | ― |
| 他社発行の商品券を受け取る | 受取商品券 | ― |
このほか、商品取引には売掛金・買掛金、時間の経過による期間配分には未収収益・未払費用、前払費用・前受収益を使用します。
似た科目を最初に区別する
| 場面 | 標準的な科目 |
|---|---|
| 商品を販売し、代金は後日受け取る | 売掛金 |
| 商品以外を売却し、代金は後日受け取る | 未収入金 |
| 当期分の収益が発生したが、まだ受け取っていない | 未収収益 |
| 商品を仕入れ、代金は後日支払う | 買掛金 |
| 商品以外を購入し、代金は後日支払う | 未払金 |
| 当期分の費用が発生したが、まだ支払っていない | 未払費用 |
| 商品引渡し前に代金の一部を支払う | 前払金 |
| 次期のサービス分をすでに支払っている | 前払費用 |
| 商品引渡し前に代金の一部を受け取る | 前受金 |
| 次期のサービス分をすでに受け取っている | 前受収益 |
第3章「仕訳の基礎」、第9章「固定資産」、第10章「見越し・繰延べ」と接続して理解します。
連続ケース:青葉ビジネスサポート株式会社
この章では、青葉ビジネスサポート株式会社の取引を使います。
| 日付 | 取引 |
|---|---|
| 4/1 | 取引先へ600,000円を貸し付けた |
| 4/1 | 銀行から900,000円を借り入れた |
| 6/1 | 商品注文時に前払金を支払った |
| 6/5 | 商品注文時に前受金を受け取った |
| 7/1 | 備品を後払いで取得した |
| 8/1 | 不要備品を後日受取で売却した |
| 9/1 | 従業員へ出張旅費の概算額を渡した |
| 9/10 | 内容不明の入金があった |
| 10/25 | 給料から税金・社会保険料を差し引いた |
| 11/1 | 事務所の差入保証金を支払った |
このページでは、金銭そのものを貸し借りした取引を扱います。
貸付金
会社が取引先や役員、従業員などへ金銭を貸し付け、後で元本を返してもらう権利は貸付金という資産です。
貸し付けたとき
取引:4月1日、取引先へ600,000円を普通預金から貸し付けた。貸付期間は6か月、年利率4%である。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 貸付金 | 600,000 | 普通預金 | 600,000 |
- 貸付金:返済を受ける権利が増えるため借方
- 普通預金:貸付資金を支出したため貸方
満期に元本と利息を受け取った
6か月分の利息は次のとおりです。
600,000円 × 4% × 6÷12 = 12,000円
10月1日、元本と利息が普通預金へ入金されました。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 612,000 | 貸付金 | 600,000 |
| 受取利息 | 12,000 |
貸付金は元本だけです。利息12,000円まで貸付金の返済に含めず、受取利息という収益へ分けます。
借入金
会社が銀行などから金銭を借り入れ、後で元本を返済する義務は借入金という負債です。
借り入れたとき
取引:4月1日、銀行から900,000円を借り入れ、普通預金へ入金された。借入期間は4か月、年利率3%である。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 900,000 | 借入金 | 900,000 |
借入時に受取利息や売上を計上しません。普通預金が増えますが、同額の返済義務も増えています。
元本と利息を返済した
4か月分の利息は次のとおりです。
900,000円 × 3% × 4÷12 = 9,000円
8月1日、元本と利息を普通預金から支払いました。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 借入金 | 900,000 | 普通預金 | 909,000 |
| 支払利息 | 9,000 |
- 借入金:元本の返済により負債が減少するため借方
- 支払利息:資金を借りた対価である費用
- 普通預金:実際支払額909,000円だけ減少
元本と利息を混同しない
| 項目 | 貸し手側 | 借り手側 |
|---|---|---|
| 元本 | 貸付金の減少 | 借入金の減少 |
| 利息 | 受取利息・収益 | 支払利息・費用 |
| 入出金 | 現金・預金の増加 | 現金・預金の減少 |
借入金を909,000円減らすのではありません。借入金残高は元本900,000円なので、元本と利息を分けます。
手形貸付金・手形借入金
金銭貸借に際して約束手形を受け取ったり振り出したりし、問題文や勘定科目候補で指定されている場合は、手形貸付金・手形借入金を使用します。
単に商品売買で受け取った約束手形は受取手形、商品代金支払いのために振り出した約束手形は支払手形です。金銭貸借か商品取引かを確認します。
詳しい手形取引は第7章「手形」で扱います。
決算日をまたぐ利息
利息支払日・受取日より先に決算日が到来し、当期分利息が未払い・未収の場合は、未払利息・未収利息を使って期間配分します。
これは借入金・貸付金そのものの記録とは別です。第10章「見越し・繰延べ」で月割計算を確認します。
貸借取引の検算
貸付
受取総額 = 元本返済額 + 受取利息
本例では次のとおりです。
612,000円 = 600,000円 + 12,000円
借入
支払総額 = 元本返済額 + 支払利息
本例では次のとおりです。
909,000円 = 900,000円 + 9,000円
よくある誤り
誤り1:借入時に収益を計上する
預金は増えますが、同額の返済義務が生じています。貸方は借入金です。
誤り2:貸付時に費用を計上する
貸付金は後で返済を受ける権利なので資産です。
誤り3:返済総額をすべて借入金・貸付金にする
元本と利息を分け、利息は受取利息または支払利息へ計上します。
誤り4:商品取引の手形と金銭貸借の手形を混同する
何のために手形を受け取った・振り出したかを確認します。
誤り5:決算日までの利息を無視する
支払・受取が翌期でも、当期分が発生していれば見越し処理を検討します。
最終チェック
- 金銭そのものの貸借か
- 受け取る権利なら貸付金、返済義務なら借入金か
- 元本と利息を分けたか
- 年利率と貸借期間から利息を計算したか
- 決算日をまたぐ場合は未収・未払利息を検討したか
- 借方合計と貸方合計が一致しているか
次の8-2「未収入金・未払金と似た科目」では、商品・商品以外・期間配分による科目の違いを整理します。
適用年度: 2026年度
最終確認日: 2026年7月18日
主な確認資料: 日本商工会議所「簿記検定試験出題区分表(2022年度適用、2026年度も適用)」「商業簿記標準・許容勘定科目表」