1-3 社会保険の基礎
この節でできるようになること
- 健康保険、国民健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険の対象者を区別できる
- 病気やけがが「業務上か、業務外か」で使う制度を判断できる
- 高額療養費、傷病手当金、出産手当金の基本的な計算と条件を説明できる
- 保険料を誰が負担するかを比較できる
法令基準日:2026年4月1日現在。保険料率や給付額は年度・加入先・都道府県などで変わるため、試験では法令基準日と問題文の前提を優先します。
1. 社会保険は生活上の大きな損失を共同で支える制度
社会保険は、病気、けが、介護、失業、業務災害、老齢、障害、死亡など、個人だけでは負担しにくいリスクを社会全体で支える仕組みです。
FP3級では、まず次の2点を確認します。
- 誰が加入する制度か
- どの原因で生じた損失か
2. 制度の全体像
| 制度 | 主な対象 | 主な給付・役割 | 保険料負担の基本 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 会社員等と被扶養者 | 業務外の病気・けが、出産 | 労使折半が基本 |
| 国民健康保険 | 自営業者、退職者等 | 病気・けが | 世帯単位で自治体等へ納付 |
| 後期高齢者医療制度 | 原則75歳以上 | 高齢者医療 | 本人保険料+公費等 |
| 介護保険 | 40歳以上 | 介護サービス | 年齢区分に応じて徴収 |
| 雇用保険 | 原則として雇用される労働者 | 失業、育児休業、教育訓練等 | 労使双方が負担 |
| 労災保険 | 労働者 | 業務上・通勤上の災害 | 事業主が全額負担 |
| 公的年金 | 国民年金・厚生年金の加入者 | 老齢・障害・死亡 | 制度により異なる |
公的年金は次節で詳しく扱います。
3. 医療保険は「業務外」か「業務上」か
ケース
会社員Aさんが次のけがをしました。
- 休日に自宅で転倒した:健康保険
- 仕事中に機械で負傷した:労災保険
- 通勤途中に合理的な経路上で事故に遭った:労災保険の通勤災害
試験の第一判断は、病気やけがが業務上・通勤上かどうかです。会社員だからすべて健康保険になるわけではありません。
4. 健康保険の被扶養者
健康保険では、一定の親族が主として被保険者の収入で生活し、収入要件等を満たす場合、被扶養者になれます。被扶養者本人の保険料を個別に納める仕組みではありません。
一方、国民健康保険には会社の健康保険と同じ意味での「被扶養者」はありません。世帯内の加入者ごとに算定要素が生じます。
よくある誤り
- 国民健康保険にも無料の被扶養者制度があると考える
- 税法上の扶養と健康保険上の扶養を同じ条件だと考える
- 年収だけで判定し、同居・続柄・生計維持などの条件を無視する
5. 医療費の自己負担と高額療養費
医療機関の窓口では、年齢や所得区分に応じた割合を負担します。一般的な現役世代は3割負担ですが、すべての人が一律3割ではありません。
高額療養費制度は、同一月に支払った保険診療の自己負担が所得区分に応じた限度額を超えた場合、超過分を支給する制度です。
標準的な計算例
69歳以下で、標準報酬月額28万円以上50万円以下の区分に該当し、1か月の総医療費が100万円だったとします。
- 窓口での3割負担
1,000,000円 × 30% = 300,000円
- 自己負担限度額
80,100円 +(1,000,000円 - 267,000円)× 1%
= 80,100円 + 7,330円 = 87,430円
- 後から支給される高額療養費
300,000円 - 87,430円 = 212,570円
計算に入らない代表例
- 差額ベッド代
- 入院時の食事代の標準負担額
- 先進医療の技術料
- 保険適用外の自由診療
よくある誤り:窓口負担30万円がそのまま最終負担だと考える。または、入院に関する全支出が高額療養費の対象になると考える。
6. 傷病手当金
健康保険の被保険者が、業務外の病気やけがで働けず、給与を十分受けられないときの所得補償です。
主な要件は次のとおりです。
- 業務外の病気・けがで療養中
- 仕事に就けない
- 連続する3日間を含み、4日以上仕事を休む
- 休業期間について給与の支払いがない、または傷病手当金より少ない
1日当たりの基本額は、原則として次の考え方です。
支給開始日前12か月の各標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3
計算例
平均標準報酬月額が30万円なら、
300,000円 ÷ 30日 × 2/3 = 約6,667円/日
待期3日間には支給されず、4日目から対象になります。支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月が基本です。
間違えやすい点
- 休み始めた初日から支給されるわけではない
- 業務上のけがは健康保険の傷病手当金ではなく、労災保険を検討する
- 国民健康保険では、会社員の健康保険と同じ傷病手当金が全国一律に当然支給されるわけではない
7. 出産に関する給付
出産育児一時金
被保険者または被扶養者が出産したときに支給される一時金です。金額や例外条件は制度改正の影響を受けるため、試験年度の基準を確認します。
出産手当金
健康保険の被保険者本人が、出産のため仕事を休み、給与の支払いを受けられないときに支給されます。被扶養者には出産手当金は支給されません。
支給額の基本構造は傷病手当金と同様に、標準報酬月額を基礎とする1日当たり額の2/3です。
8. 介護保険
| 区分 | 対象者 | 給付を受ける主な条件 |
|---|---|---|
| 第1号被保険者 | 65歳以上 | 原因を問わず、要介護・要支援認定を受ける |
| 第2号被保険者 | 40歳以上65歳未満の医療保険加入者 | 加齢に伴う特定疾病が原因で認定を受ける |
第2号被保険者は、交通事故など特定疾病以外の原因だけでは介護保険給付の対象になりません。
9. 雇用保険
雇用保険は失業時の基本手当だけではありません。
- 求職者給付
- 育児休業等に関する給付
- 介護休業給付
- 教育訓練給付
- 雇用継続に関する給付
基本手当を受けるには、離職前の被保険者期間、働く意思と能力、求職活動などの条件があります。自己都合退職と会社都合等では、給付制限や所定給付日数の扱いが異なることがあります。
10. 労災保険
労災保険は、労働者の業務災害と通勤災害を補償します。
判断例
- 工場で作業中に負傷:業務災害
- 通常の通勤経路で事故:通勤災害になり得る
- 通勤途中に私的目的で大きく経路を外れ、その間に事故:原則として通勤災害とならない可能性
保険料は事業主が全額負担します。労働者から半額を徴収するという選択肢は誤りです。
11. 制度を選ぶ判断手順
- 会社員、自営業者、被扶養者などの立場を確認する
- 病気・けが・失業・介護など原因を確認する
- 業務上・通勤上か、業務外かを確認する
- 年齢・所得・加入期間などの条件を確認する
- 支給額と期間を計算する
12. 試験で狙われる誤答パターン
- 労災保険料を労使折半とする
- 介護保険の第1号・第2号を逆にする
- 高額療養費に差額ベッド代まで含める
- 傷病手当金の待期3日を支給日とする
- 被扶養者にも出産手当金が支給されるとする
- 業務上のけがを健康保険で処理する
13. 学習のつながり
- 前の教材:ライフプランニングの手法
- 次の教材:公的年金
- 関連教材:リスク管理・保険の基礎
- 対応問題:第1章の練習問題
- 復習カード:第1章の知識カード
14. 公式確認先
- 全国健康保険協会
- 厚生労働省
- ハローワーク
- 日本年金機構
保険料率、給付額、所得区分は改定されるため、年度を明示して確認してください。