1-5 企業年金と個人年金
この節でできるようになること
- 確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)の違いを説明できる
- 企業型DCとiDeCoの掛金上限を、加入している企業年金から判断できる
- iDeCoの拠出時・運用時・受取時の税制を区別できる
- 老後資金の商品を、保証・運用責任・途中引出しの観点から比較できる
制度基準日:2026年4月1日現在。iDeCoの掛金上限は、加入区分、勤務先の企業年金、事業主掛金等によって変わります。「会社員は一律2万円」と覚えないでください。
1. 公的年金だけでなく、上乗せ制度を組み合わせる
老後資金の主な階層は次のように整理できます。
- 国民年金・厚生年金などの公的年金
- 企業が用意する企業年金・退職金
- 個人が準備するiDeCo、個人年金保険、預貯金、投資信託など
FPは「税制優遇があるから必ず加入」と結論づけるのではなく、生活予備資金、住宅・教育資金、途中引出しの可否、運用リスクを確認します。
2. 確定給付と確定拠出
| 項目 | 確定給付企業年金(DB) | 確定拠出年金(DC) |
|---|---|---|
| あらかじめ決まるもの | 給付の算定方法 | 掛金 |
| 運用主体 | 企業年金側 | 加入者本人 |
| 運用リスク | 企業側の負担が大きい | 加入者が負う |
| 将来の給付額 | 規約上の算定方法による | 運用成績で変動 |
| 転職時 | 規約等により扱いを確認 | 資産移換が重要 |
覚え方
- DB:Benefit(給付)がDefined(確定)
- DC:Contribution(拠出)がDefined(確定)
ケース
同じ毎月2万円の掛金でも、DCでは運用商品を選ぶのは加入者です。元本確保型商品を選べば価格変動は抑えられますが、物価上昇に負ける可能性があります。投資信託を選べば増える可能性がある一方、元本割れもあります。
「DCなら会社が将来額を保証する」という選択肢は誤りです。
3. 企業型DC
企業型DCは、事業主が掛金を拠出し、加入者が商品を選んで運用する制度です。規約により加入者が上乗せ拠出するマッチング拠出が利用できる場合があります。
運用指図をしないリスク
加入後に商品を選ばないままにすると、規約に基づく指定運用方法等で扱われることがあります。自動的に最適な資産配分になるとは限りません。
転職・退職時
企業型DCの資格を失った後、必要な移換手続きをしないと、自動移換となり、運用できない、手数料がかかる、受給要件に関わる期間へ影響するなどの不利益が生じることがあります。
4. iDeCoの基本
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で掛金を拠出し、自分で運用商品を選び、原則として老後に受け取る制度です。
主な特徴
- 掛金は原則として毎月一定単位で設定する
- 運用商品は預貯金、保険商品、投資信託等から選ぶ
- 原則として60歳まで自由に引き出せない
- 受給開始可能時期は通算加入者等期間によって異なる
- 掛金上限は加入区分・企業年金の状況で異なる
5. iDeCoの掛金上限を判断する
代表的な月額上限の考え方は次のとおりです。
| 加入区分 | 代表的な上限 |
|---|---|
| 第1号被保険者 | 月額6.8万円(国民年金基金の掛金・付加保険料等との合算に注意) |
| 企業年金のない会社員 | 月額2.3万円 |
| 第3号被保険者 | 月額2.3万円 |
| 企業年金に加入する会社員・公務員等 | 原則月額2万円を上限とし、勤務先掛金等から個別計算 |
企業年金加入者の重要な計算
企業年金加入者は、単純に全員2万円拠出できるわけではありません。基本的な考え方は、
5.5万円 - 企業型DCの事業主掛金 - DB等の他制度掛金相当額
で求めた額と、月額2万円のいずれか低い額が上限です。
ケース1:上限2万円を使える
- 企業型DC事業主掛金:2万円
- DB等掛金相当額:1万円
5.5万円 - 2万円 - 1万円 = 2.5万円
2.5万円と2万円を比べ、低い 2万円 がiDeCo上限です。
ケース2:上限が1万円になる
- 企業型DC事業主掛金:3万円
- DB等掛金相当額:1.5万円
5.5万円 - 3万円 - 1.5万円 = 1万円
この場合、iDeCo上限は 1万円 です。
よくある誤り:「2024年12月以後、企業年金加入者は全員2万円まで」と断定する。2万円は上限であり、勤務先掛金等により実際の上限は下がります。
6. iDeCoの3段階の税制
| 段階 | 税制上の基本 |
|---|---|
| 掛金を出すとき | 掛金全額が小規模企業共済等掛金控除の対象 |
| 運用しているとき | 運用益は制度内で非課税 |
| 受け取るとき | 一時金は退職所得、年金は雑所得として控除を検討 |
掛金控除の計算例
年間掛金24万円、所得税率10%、住民税率10%と単純化します。
240,000円 ×(10%+10%)= 48,000円
税負担の軽減効果は概算4.8万円です。ただし、もともとの課税所得が少ない人は、同じ掛金でも効果が小さいことがあります。
受取方法
- 一時金:退職所得として退職所得控除を検討
- 年金:公的年金等に係る雑所得として公的年金等控除を検討
- 併用:一時金と年金を組み合わせる場合もある
会社の退職金とiDeCo一時金を近い時期に受け取ると、控除計算上の調整が生じる場合があります。受取時期は出口まで含めて検討します。
7. iDeCoのメリットだけで判断しない
メリット
- 掛金時の所得控除
- 運用益の非課税
- 受取時の控除
- 老後資金を強制的に積み立てやすい
注意点
- 原則60歳まで自由に引き出せない
- 手数料がかかる
- 運用商品によって元本割れがある
- 所得が少ないと掛金控除の効果が小さい
- 生活予備資金を減らしてまで拠出すると、短期資金が不足する
ケース
貯蓄が20万円しかなく、1年後に引越し費用50万円が必要な人が、節税だけを理由にiDeCoへ月2万円拠出すると、引越し時に資金不足になる可能性があります。
老後資金は重要ですが、使える時期が決まっている資金と、いつでも使える緊急資金を分けます。
8. 国民年金基金と付加年金
第1号被保険者には、公的年金の上乗せとして国民年金基金や付加年金があります。
- 国民年金基金:将来の年金額を上乗せする仕組み
- 付加年金:定額保険料に付加保険料を上乗せし、老齢基礎年金へ加算
国民年金基金と付加年金は原則として同時に利用できません。また、iDeCoの上限計算では国民年金基金等との合算を確認します。
9. 個人年金保険
個人年金保険は民間保険です。iDeCoと同じ制度ではありません。
| 比較 | iDeCo | 個人年金保険 |
|---|---|---|
| 運用 | 自分で商品を選ぶ | 契約内容による |
| 途中引出し | 原則60歳まで不可 | 解約可能な場合があるが元本割れに注意 |
| 掛金・保険料控除 | 小規模企業共済等掛金控除 | 条件を満たせば個人年金保険料控除 |
| 受取時 | 一時金・年金の税制 | 契約者・受取人・受取方法で異なる |
保険料負担者、年金受取人、被保険者の関係によって、所得税や贈与税の扱いが変わることがあります。
10. 商品比較の判断手順
- いつ使う資金か
- 途中で引き出す必要があるか
- 元本保証が必要か
- 誰が運用リスクを負うか
- 掛金上限はいくらか
- 拠出時・運用時・受取時の税制はどうか
- 勤務先の退職金・企業年金と重複しないか
11. 試験で狙われる誤答パターン
- DBとDCの運用責任を逆にする
- iDeCoはいつでも解約して現金化できるとする
- 企業年金加入者のiDeCo上限を一律2万円とする
- iDeCo掛金を生命保険料控除とする
- iDeCoの運用益が毎年課税されるとする
- 一時金と年金の所得区分を逆にする
- 国民年金基金と付加年金を同時利用できるとする
12. 学習のつながり
- 前の教材:公的年金
- 次の教材:資金計画(住宅ローン)
- 関連教材:金融資産運用・投資信託
- 関連教材:タックスプランニング・所得控除
- 対応問題:第1章の練習問題
- 復習カード:第1章の知識カード
13. 公式確認先
- iDeCo公式サイト
- 厚生労働省「確定拠出年金制度」
- 国民年金基金連合会
掛金上限や加入条件は改正されるため、勤務先の制度と受検年度の公式情報を照合してください。